169.君が張ってた、予防線。 ページ10
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ーーー…真優『待ってたの、私。ずっと和くんのこと』
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あの時。樋口さんは確かに、そう言っていた。
アイスティーが汗を滲ませ、味を薄くしていく。
コースターに水たまりができる。
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和くんの隣にいる梅宮さんを見て、色々な感情がごちゃごちゃになって。
少しの嫉妬と、安堵だった。和くん、自分のテリトリーに入れる女の人と出会ったんだ、って。
「A」って呼ばれてましたよね。…和くんって彼女の名前呼ばないんですよ。
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「…え？」
真優「面倒だからよばないんだって」
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私と一緒にいた時、そう言ってたんです。今まで付き合った彼女のこと名前で呼ばないんだって。
あだ名で呼んだんだって。名前で呼ぶと愛着が湧くから、この商売してると、長続きしないから。
いつか壊れるんだったら、名前なんて呼ばなくていいって。
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和也『にのみやちゃん』
和也『うめちゃん』
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ふと脳裏に思い浮かぶシーン。
確かに出会って間もない頃は、私のことを名前で呼ぶことは少なかった。
あれは…防御線を引いてたってこと？点と点が結ばれて、綺麗な線になっていく。
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真優「私は特殊な関係だったし。真優って呼ばれることもあまりなかったんです」
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だから、Aって普通に名前を呼ばれて、普通に何の驚きもせず「ん？」って顔をした梅宮さんが少しだけ、羨ましかった。
その反対にあぁ、名前を呼んで愛着が湧いてもいい相手と出会えたんだってホッとしたんです。
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でも。
私と頑なに和くんは会ってくれませんでした。会いたい、とメールを打っても無視。
電話も無視。私は腹を括って羽柴さんに電話をかけました。
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羽柴さんは電話番号を変えてくれていなくて、一瞬私に驚いたけど懸命に今までの経緯を話したら
少しだけ時間をとります、って言ってくださって。車の後部座席に乗せてくれて和くんに会ったんです。
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和くんは車に乗り込んできて、私のことを見て目を大きくして、それから羽柴さんを睨みつけた後
観念したように溜息を吐いて、私の隣に座ってくれました。
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それから、車が動き出して
すっかり大人になった和くんと肩を、並べました。
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