167.移りゆく世界の中でも、あなたがいい。 ページ8
.
.
カラン、と氷が鳴った。
.
.
「私は、あなたを捨てたんじゃない。」
誠「……」
「…あなたを思い出にしただけです」
.
.
和也『言葉は時に人を傷つけるし、逆に幸せにする』
『あ、なに怖い怖い。急に詩人？ポエマー？』
和也『そんぐらい言葉には影響力があるってこと。ただの言葉なのに。音なのに。』
『…まあ、そうね』
和也『言葉選びは慎重に、って言うでしょ。そこまで考えないと俺みたいにはなれないのよ』
『いやカズみたいにはなりたくないかな…』
和也『オイ。』
.
夕ご飯を作りながら、カズが珍しく手伝いに来てくれた時。カズは私にそう言った。
確かに。ただの音なのに、その言葉で人は深く傷ついたり、とても喜んだりする。
カズは、言の葉をしっかりと掴んでいた。
.
.
思い出にした。
そう言えば、誠くんが俯いたのが分かった。
.
一度カズにこてんぱんにされている。
そこまで反論してくるとは思ってなかった。この私の言葉が、彼に響けばいいと思った。
.
誠くんはもしかしたら、私のことを本当に好きでいてくれたのかもしれないし
ただの暇潰しの相手だったかもしれない。
それでも私の二年間は確かに楽しかったし、輝いていたと思う。
.
もちろん傷ついたし、苦しかったし、もう嫌だって泣きついた。選んだ道はカズと契約することだったけれど
悲しい思い出だけじゃない。二年間の中には、必ず楽しかった思い出が散らばっている。
.
私は好きだったんだ。彼が。
.
.
真優「…わたし」
.
時代は移りゆく。
季節も移りゆく。
心も変わってゆく。
.
そうやって、生きていく。
.
.
真優「羨ましかったんです、梅宮さんが」
.
.
樋口さんが控えめに赤を入れている、小さな唇を開く。
この時、初めて樋口さんとちゃんと、目と目が合った気がした。
.
.
誠くんは相変わらず顔を俯かせたままで
それでも
私の見間違いでなければ、彼の手のひらに雫が一滴震えていたのが見えて
.
やけに、それが胸を熱くした。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7331人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
