162.『あの時間』 ページ3
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散々悩んだ。散々苦しんだ。
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もう、「散々」は散々だ。
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「お疲れ様でした。お先に失礼します」
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日曜日に駆り出された数人にぺこり、とお辞儀をして。ひらひらと手を振ってきてくれた佐藤くんに手を振り返してオフィスを出た。
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外は快晴。梅雨はすっかり明けて、世間は夏だと賑わい始めていた。
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「あっつ……」
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地球温暖化かなんかの影響なのか、年々暑くなっていく夏に眩暈がする。
太陽はそれでも容赦はなく、ギラギラと私を睨みつけてくる。
…いや、多分違う。応援してくれてるんだと思う。
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信号は青。
平気なふりして震える足。
それでも大丈夫と心臓を落ち着かせて息を吸いながら、カズと出会ったこの街を歩く。
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ここまで来るのにだいぶ時間を食った。
ずっと怖くて、向き合うのが嫌で、一人で戦う勇気が出なくて
逃げたかった。逃げようと、思ってた。
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ーーーー…でも。
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和也『A』
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無駄だと言わせたくなかった。
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カズと私が過ごした時間は、嘘にまみれていて、どれが本当か分からないぐらいの。
あんなのおままごとだと、そういう人がいるかもしれない。
それでも。
あの時間は確かにあって、あの時間は確かに私の心を揺るがして、あの時間は無駄じゃなかったと。
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あの時間は、確かに私を強くしたと証明したかった。
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だから、決意を固めた。
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“俺ね、いつも出勤パラシュートなの”
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「…嘘をつけ、嘘を」
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“家でね、裸でグランドピアノ弾いてんのよ”
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「ピアノなんてないじゃない(笑)」
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“俺、平熱35度なの”
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「……」
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これは知らない。平熱35度だったんだ。低。
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イヤホンから流れ込む、タイムフリーのホラ吹きラジオに口元を緩ませながら弱冷房の電車に乗り込む。
ここ何週間か。私はカズのラジオをまた聴き始めた。
基本パズドラの話とか、なんかよく分からない話題ばかりだけど。そんな話をするカズの声を聴くと、胸の内がホッとする。
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“次いこ、次ー”
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カズ。私、頑張って来るよ。
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