175.正論を正しく使う人 ページ16
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いつものスーツ姿。そういえばスーツ以外の格好をした羽柴さんを
私は見たことがないかもしれない。
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羽柴「お茶とコーヒー。どっちがいいですか」
「えっと…じゃあお茶で」
羽柴「どうぞ」
「ありがとうございます。おいくらでした？」
羽柴「お代は結構です」
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ぬっ、と出された500mlのペットボトルを受け取ってぺこりとお辞儀。
それを確認した羽柴さんが満足そうな顔をして、私の隣に座り込む。
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比較的人通りが多くない道。
初夏特有の生温い風が喉元にまとわりついた。
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「…あの羽柴さん」
羽柴「なんでしょう」
「カズって今どこにいますか…？」
羽柴「撮影中です」
「じゃなくて…どこに住んでます？」
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恐る恐る尋ねれば
コーヒーを喉に流し込んでいた羽柴さんが手元を離して
私を一瞥して、ゆっくり口を開く。
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羽柴「プライバシーに関する質問ですので、お答え出来かねます」
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ーーーー…羽柴さんは、やっぱり羽柴さんだった。
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ごもっとも。正論。
何かの小説で読んだことがある。正論は正しいけれど、正論を武器にするのはそれは違う。
羽柴は正論を、正しく使う人。
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言葉だけ聞けば少し冷たい人に思えるけれど。私を見る目、そしてここまでやって来てくれたこと。
それら全てを併せれば、羽柴さんはとても優しい人だ。
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「そう…ですよね」
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だけどちょっぴり期待した。
もしかしたら羽柴さんは私には教えてくれるかも、なんて
しゃぼん玉みたいな、淡い期待。
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ペットボトルの蓋を開けて、まだ冷たいお茶を体の中に染み込ませると
不思議と体温だけじゃなく、気持ちも落ち着く感じがした。
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「カズ、元気ですか？」
羽柴「少し撮影が詰め詰めでお疲れの様子です」
「そうですか…」
羽柴「相変わらずパズドラはしてますよ」
「レベル上がったんですか？」
羽柴「ええ、大分。今日からイベントが始まるみたいで今日は比較的元気でした」
「また課金するんですかね」
羽柴「課金は負けじゃないって今朝意気込んでました」
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羽柴さんはそう言って、面白そうに笑った。
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