173.「普通」 ページ14
.
.
からんからん、とお店のベルが鳴った。
カップルらしき二人組がニコニコしながら席を案内されて、メニュー表を持つ。
.
あれが、普通だ。
.
.
「…え？」
真優「…初めて見たんです」
.
.
ーーーー…真優『大切なんだ、そのAちゃん、って子』
和也『…あぁ。』
.
和也『多分、一番大切。』
.
真優「…あんな和くんの、優しい顔」
.
.
羽柴さんもね、私が車から降りるとき困ったように優しく笑ってて
あぁ、そうなんだって。
.
真優「和くんにとって、梅宮さんは本当に特別なんだって」
.
.
ぽろ、と不意に左目から溢れた涙はアイスティーが泳いでるコップのふちに落ちて弾けて甘くなる。
知らない。分からない。そんなの。
.
だって、いつだってカズはそんな素振りを一度も見せたことがなかった。
いつだって意地悪く笑って、頭の回転が早くて
………早くて
.
.
「…あの、私」
真優「和くん、今日22時まで仕事らしいです」
「え、あ…」
.
反射的に左手首に巻き付けられてる、針を見ると16時前を示してる。
.
真優「私もさすがに和くんが今どこにいるのだとか、どこに住んでるのとかは分かりません」
「…」
真優「でも時間は沢山あります」
「……」
真優「どうか、間違えないように」
.
.
樋口さんがそう強く私に言ってくれて、手をぎゅと握られる。
それから何も言わず、首を縦に振って
ふんわり、やさしく。それは本当に世界で一番優しい微笑みを。
.
「…今度、ご飯。食べに行きませんか」
真優「喜んで！」
「…すみません、あの」
真優「小野さんのことなら私が」
.
樋口さんの隣で項垂れてる、誠くんを横目でチラリと見て立ち上がる。
.
「…すみません、よろしくお願いします」
.
カバンを持って、バッと立ち上がる。
財布からお金を取り出して、手をつけなかったご飯たちにごめんなさいと謝って
.
.
「…ありがとうございました！」
.
.
私は、自分の意思でお店を飛び出した。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 7331人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
