112.カオニカゲリ ページ4
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「吹き込まれたって……別に何も」
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あは、って笑っても目の前にいるカズの目は笑ってない。
苦手。
どんなにカズの方が好きでも、この私の何か裏を見透かそうとする茶色いビー球みたいな瞳が苦手。
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和也「俺が気づかないと思った？」
「…え？」
和也「誠とマンションに戻ってきた時から様子がおかしかったでしょ。ずっと心ここに在らずって感じで」
「……」
和也「いつ言うかなと思って待ってたけど、こんなになるまで自分を追い詰めて…何してんの？」
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目を細める。東京の夜景が私たちを見つめて来る。
一歩、私が後ずされば
一歩、カズが前に進む。
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「カズ」
和也「何誠にキスされてんの？」
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一歩。また一歩。
見たことがない「男」の表情にトキメキより、恐ろしさの方が勝って指先が勝手に震える。
一歩。また一歩…。
とん、と踵が何かにぶつかった拍子
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「あっ」
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思わず漏れた声。
重力に従って、倒れるからだ。
ぼすん、とソファに沈んだ背中。
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そんな私を、口角をキュッと上げて
嘲笑うような微笑みで見下ろす………カズ。
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和也「契約は解消されても、あそこの部屋に住んでる限り、うめちゃんは俺のペットだってこと分かってる？」
「…な」
和也「他の飼い主に噛まれてんじゃないよ」
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とん、と私の顔の横に突く手。
覆いかぶさるカズの体。
顔に翳り。
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近づいて来る、顔。
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和也「…誰が飼い主か、分かってんの？」
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フッと笑う。
目が細まる。
唇と唇の距離は2センチ。
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消毒しなきゃね。A。
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「ーーーー…っ、だいじなひと！」
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距離、0.2センチ。
カズの動きが止まって、息が顔にかかる。
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「カズは前に大事な人がいて、その人と私を重ね合わせてるって聞いた」
和也「……」
「もし、本当にそうなら一緒にいるのが辛いって思った。だから、だからっ…」
和也「もう黙れよ」
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泣きそうなキスは、言葉を塞ぐ事務的なものだった。
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