あの傭兵に妹がいたようで【第五人格】 (ページ10)

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ナワーブside

「変なヤツ…」

「ねぇそれ僕に言った！？」

「ちげーよ。黙って叩け」

俺が遅刻してチェックを入れるまでジッと見ていたアイツ。衛生兵。
筋肉も大して付いてなさそうな小柄な男。

食堂では口元にガッチリと付けられたガスマスクが一際目立っていた。

「「解読に集中して！」」

そんな声が無線機から2人分聞こえた。

『先に行くよ！』

その合図は暗号機が一台仕上がった事を知らせた。
ほぼ同時に信号が送られた場所の暗号機も仕上がる。

「今日ハンター全然攻撃してこないね！楽勝かも！」

「油断するなよ？…………ほらみろ」

「あ、メディックさんだ！」

やられたアイツは初試合だからチェイス慣れ…いやそもそもしてないのだからすぐ捕まるに決まってる。
だから俺はマイクから離れてアイツから出た信号の側で身を潜めた。

『これでも食らってな！』

威勢の良い声と、とたたたっと地を蹴る音、その2つが入り混じって俺の後ろを通り過ぎて行く。

少し離れた壁の向こう側にイライがいたらしく、試合中だというのに笑い声が聞こえてくる。

「アイツ…初日から仲良いよな……」

アイツが荘園に来た日、機嫌の悪かった俺はロクな挨拶もせずに自室に篭った。
少し時間が経って部屋に誰かいる事に気がついたが、起きる気力はさらさらなかった。

解いた髪に触れる柔らかな手、何よりも驚いたのはとある子守唄。

小さい頃母に歌ってもらった。成長して、寝付きの悪い妹に歌った。
いつも就寝前に妹は読み聞かせの本より以前に、

［おうたうたって！おにいちゃんのききたい！！］

と毛布を被りながらよく言っていた。

その懐かしい子守唄を俺の後ろに座る人物が歌ったのだ。
ソプラノとアルトの中間の部分、恐らく女が歌ったんだろうと思われた。

俺が眠りに落ちていく最中、ソイツが言った。

［Good Night ………… I………….もっと貴方と……］

暖かみのある声でソイツは言って、カサついた何かが頬に触れた。

翌日の朝気づいたのだ。触れたのはソイツの唇だって。
でも誰のかは分からなかった。

回想の沼に引き込まれていた俺は鐘の音で現実に引き戻された。
壁の端から辺りを見渡せば、イライが縛られていることがわかった。

「呑気に笑っていた罰だ」

そう仲間を鼻で笑った俺は肘当てを発動させて、椅子へと走り出した。

あの子守唄とまだ幼かった、守ってやれなかった妹を思い出しながら。