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Aの希望だった寿司は俺が断固拒否して、結局いつもの個室居酒屋。
メンバーや事務所の人間ともよく来るこの店は、サングラスを外さずとも、何も言わず人目のつかない一番奥の個室に通してくれる。
｢…頼みすぎちゃう？｣
A｢ケチくさいこと言わんといてよ｣
ヤケ食いなのか、他人の金だからなのか。
テーブルからはみ出しそうなくらい並べられた料理たちを前にして、Aはさぞかしご満悦な様子。
俺はその笑顔を一瞥し、炙り明太子を箸でつまんで、緑茶ハイと一緒に喉へ流し込んだ。
｢プレゼント、何あげんの？｣
A｢ヘッドホン。
今のやつ、片っぽの調子が悪い言うてたから｣
カプレーゼを口に入れて、『もうあげへんかもしれんけど』と苦笑いするA。
その顔には大倉への寂しさが溢れている。
A｢忠義、彼女できたんかな｣
｢あぁ…、どやろな｣
A｢ま、人の恋愛には口出しせぇへんけど｣
そう言い放ち、珍しくピッチを上げてビールを胃に流し込む様子に、俺は一抹の不安。
｢A、あんま飲みすぎんなや｣
A｢亮ちゃん、ヒナちゃんみたい(笑)｣
｢一緒にせんといて｣
ケタケタ笑ってキンキの煮付けを一口ぱくり。
…それ、俺が頼んだやつやねんけど。
A｢亮ちゃんさぁ…。
あたしが圭人と付き合ってるって聞いて、どう思った？｣
｢はぁ？なんやねん、いきなり｣
A｢せやからほら、なんかあるやん。
嫌やな、とか、めでたいな、とか｣
さっきまで村上くんの話で笑っていたのに、彼女はいきなりテーブルに頬杖をついて、俺の反応を窺ってくる。
｢んー…、まぁ昔から仲良かったし、ええことやな、とは思ったけど｣
A｢…ふぅん｣
｢せやから、なんやねんな｣
Aはテーブルの皿へと視線を移し、俺の目の前にあった炙り明太子に『もーらいっ』と素早く箸を伸ばした。
…自分で頼んだ刺身盛り、食わんかい。
A｢あたしはな、誰かの熱愛報道が出るたびに、すっごい寂しくなる｣
彼女は明太子を咀嚼して、グラスに残ったビールを一気に飲み干し、流れ作業かのように、コールボタンを人差し指で押した。
A｢相手が誰でも、なんか嫌。
メンバーに対して恋愛感情なんて無いけど、自分がその彼女に負けたって思って、寂しくなる｣
そう告げられた瞬間、店員が扉をノックし、『生ひとつ』とAが営業スマイルで注文をした。
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作者名：布由 | 作成日時：2018年1月18日 10時
