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コールボタンで呼び出した店員に、生ビールを注文。
それから、ウィスキーのロックを飲んでいるであろう彼女に、チェイサーをひとつ。
ドリンクが運ばれてくるまでも無言、運ばれてきてからも無言の個室内で、俺は腹を括って口を開いた。
｢…えっと、ごめん｣
A｢…何が｣
｢今日、ドタキャンして｣
緊張と急いだせいでカラカラの喉に、ビールをグラス半分、一気に流し込む。
食道を通り抜ける炭酸がしゅわしゅわと弾けて、そのピリリとした痛みに顔が歪んだ。
A｢これ…、渡したかってん｣
唇を噛み締めた俺に、Aがテーブルの上から差し出した赤い包み。
それを両手で受け取ると、彼女は『今日やないと、あかんかったの』と瞳を震わせて言った。
A｢今日を逃したら、忙しくてしばらくお祝いできひんから。
あたしも、悪口いっぱい言って、ごめん｣
｢…開けていい？｣
頷く彼女の目は、今朝と同じように潤みきっている。
謝らなければいけないのは、俺のほうなのに。
Aの申し訳なさそうな表情と口調が、罪悪感を更に掻き立てる。
｢ヘッドホン…？｣
A｢この前、片耳の調子悪いって…｣
俺が持っているものよりも、数倍も質のいい、真っ赤なヘッドホン。
重厚なその造りとつやつやな手触りに、俺は一瞬で目を奪われた。
…そして、思った。
俺はなんてことをしてしまったんだろう、と。
こんなにも俺のことを考えて、祝ってくれようとしてくれていた彼女に、突き放すような真似をするなんて。
｢…めっちゃ嬉しい｣
A｢ん、よかった｣
｢ほんまごめん、A｣
｢…ん｣
頷きながらも、彼女がまだ少しだけ寂しそうな笑顔を見せるから、俺はヘッドホンを握りしめたままテーブルの向かいへと身体を動かした。
｢ごめん、A｣
もう一度囁くように謝って、俺よりもふた周り小さいその身体を、包むように抱きしめた。
A｢もう、ええって(笑)｣
｢ごめん、ほんまごめん｣
A｢分かったってば(笑)｣
うわ言みたいに『ごめん』を繰り返す俺に、Aは呆れて笑い、細い腕を俺の背中に巻き付けた。
何度謝っても足りなくて、俺は一番大切な存在を蔑ろにしてしまったことへ、反省だけがこみ上げる。
A｢こうやって、来てくれただけで充分｣
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作者名：布由 | 作成日時：2018年1月18日 10時
