深澤じゃなくて…渡辺！4

113 ページ20

「…小さい頃から走ることが大好きだったんです」


渡「…うん」


「テレビで見たすごい速さで駆け抜けていく陸上選手を見て、私もこんなふうになりたい、こんなふうに走りたいって思って」







翔太先輩にボソボソと話しながら自分自身にも話すような気持ちになった







あの時は無我夢中で走ってた




走ることがただただ楽しくて





将来の夢はオリンピックとか、大きな舞台で’’楽しく’’走ることだった









中学生になれば自然と陸上部に入って




記録とかそんなもの関係なく走るの楽しい〜！気持ちい〜！なんて思いながら大会に出たら




初めての大会で、その大会の新記録が出たりして




周りからたくさん褒められた、すごいねって将来は陸上選手だねって










期待に応えたかった気持ちは次第にタイムを少しでも縮めなきゃ、大会で必ず1番を取らなきゃというプレッシャーに変わった









走るのが楽しかった気持ちはいつのまにかどこかへ消えていた











タイムが出ないことに焦って遅くまで走り込みをしたり



無茶な練習を続けた結果









体が悲鳴を上げた










痛みを感じていたのにそれを無視して気づいてないふりして走り続けたせいで





大事な大会のゴール直前に経験したことのないほどの激痛が右足を襲った










全治3ヶ月、だけど無理をしたせいで状態はかなり酷く完全に選手として復帰はかなり厳しいと告げられた








今しか見えていなくて






今を頑張りすぎたことで私の将来を自分自身でダメにした











陸上の推薦が来ていた高校も推薦取消しになり、もう憧れた大きな舞台で走ることもできない








走ることが楽しいと感じていたあの頃に戻りたくてどうしようもなかった









毎晩1人で泣いて悔やんで、








高校も走ることができないなら進学なんてしたくなかった










そんな私を見かねた亮平となっちゃんは











今の高校に一緒に行こうとまだ間に合うからと私を連れ出してくれた










「…私って’’走ること’’しか取り柄がないんです」



「だから、昔みたいに走ることができなくなった今、私は全然魅力がなくて」




「亮平やなっちゃんに迷惑かけて、久しぶりに走ることができたのに、久しぶりに…楽しいって思えたのに…



結局転んじゃって翔太先輩にも迷惑かけて…やっぱ私、全然ダメですね〜…」

114→←112

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す