54:最後の修行_4 ページ9
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明け方、私は一人、滝の前にいた。
「さっむ……」
空気の澄んだ山の中は凍てつくような寒さで、風が吹けば肌に刺さるような冷たさだ。
けれど鱗滝さんと稽古していた山よりはまだ酸素があり、呼吸に関してはとても心地が良い。
「はぁ……」
昨日、どうやったら滝行に参加できるのかと稽古中に考えていた。
結局いい考えは浮かばず、導き出した答えは彼らが寝ている時間にやってしまえばいいという単純なものだった。
お昼よりも寒い事は確かだけど、多少は耐性があるから大丈夫なはずだ。仮に気絶したとしても、もうすぐ起きるであろう夏香か天元が助けてくれるだろう。
「っめたぁ〜!!」
水に片足をつけると、痺れるような冷たさで動けなくなってしまう。
歯がガチガチと鳴り、皆がなぜあんなに震え上がっていたのかよくわかった。
(暖かくなってきた。これなら行けそう!)
足が冷たさに慣れ、ゆっくりと滝の方へと進みながら、念仏を唱えていく。
このまま口を動かし続けていたら、いつか舌を噛んでしまいそうだ。
(まずはこれだけで……)
滝の中にゆっくりと右腕を入れた途端、落ちてくる水の重さでガクンっと持っていかれそうになる。
「凄い……」
これは良い訓練になりそうだ。
腕だけでこんなに辛いのなら、体を入れたらどんな風になってしまうのだろう。
「A〜、飯できてんぞ〜!」
(もうそんな時間か……)
タオルをブンブンと振り回しながら、天元が近づいてくる。
「おはよう」
「おはよ」
滝壺から移動して川に戻り、天元のいる方の岸へとあがる。
そのままタオルを受け取り、濡れた所を急いで拭いて小屋の中に戻る。
「さすがA、朝から鍛錬とは優秀だな〜」
「天元もやる?」
「やらないに決まってんだろ! 昼で充分だわ!」
「ふふ、そうだね」
「はい、ご飯〜」
「ありがとう」
夏香から朝食を貰い、みんなより少し遅れてご飯を食べ始める。
他の隊士達が訓練を始めたのを見ながら、のんびりと川魚を食べる。
(凄いな〜)
夏香が4つの丸太を肩に担ぎ、軽々と持ち上げているのを見て、川に浸かっている他の隊士がドン引きしている。
「私もやろ!」
朝食を食べ終わり、私も向かい側に置いてある丸太の所へ向かう。
(難しい……)
私はまだ3つしか丸太を持ち上げることが出来ず、重さでバランスを取るのが難しくてグラグラと揺らいでしまう。
その代わり足腰にいい具合に負荷が掛かって、個人でやる訓練の中ではやり甲斐を感じる物だ。
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作者名:ゼパル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時:2023年8月24日 23時