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「そうだ、A。お前は俺から教わりたいと言っていたが、それは時間の無駄になる可能性がある」
定食屋からの帰り道、突然冨岡さんがハッと思い出したように立ち止まり、私に告げた。
驚く私を横目に、彼は続けて理由を説明し始めた。
「まず第一に日の呼吸を使う者はあまり水の呼吸と相性が良く無い可能性がある。炭治郎がそうだった。もちろん例外もあるかもが、恐らく大抵の者がそうなるはずだ」
「でも師範は日の呼吸を使わない時は水の呼吸を使ってましたよ?」
「だが威力は俺以下だろう。本人にとって極めた結果がそれだとしても、それは呼吸の最高到達点では無い。それだけ呼吸と言うのは、使い手によって実力の振り幅があるんだ」
確かに思い返してみれば、私の目から見て僅かだが、師範の水の呼吸と冨岡さんの水の呼吸では威力に差があった。
あまり気にする程の事では無いと思っていたが、上弦の鬼と戦うとしたら、確かに自分の一番極められる呼吸を使いたいと思ってしまう。
「今のAがやるべき事は、日の呼吸を安定して使えるようになる事だ。時間がある今だからこそ、自分の目的を見誤るな」
「はい」
「……本当に俺の稽古を受けたいのなら、先に他の柱たちの稽古を終わらせてこい。話はそこからだ」
冨岡さんは私の頭をポンっと叩き、再び歩き出した。
私もすぐに後を追い、彼の隣に並んで歩き出す。
「でも悲鳴嶼さんの稽古は明日から参加するつもりなので、今日は普通に稽古つけてくれますか?」
「……ああ」
__翌日
「A、起きろ」
「へっ!?」
冨岡さんの少し焦りの籠った声で、今日が始まった。
「落ち着いて聞け、寝坊だ」
「寝坊……!? えっ、もう昼!?」
「まだ昼前だ。急げ」
冨岡さんが素早く台所の方へと向かい、ドタバタと互いに今日の準備を始めていく。
昨日は稽古を夜までした後、ずっと師範の事を話していたせいで寝るのが遅くなってしまった。
「冨岡さんって料理できるんですね」
「少しだけだがな」
彼の作った料理を頬張り、今度は私が食器の片付けをしていく。
「昨日はありがとうございました」
「次の稽古、頑張って来い」
「はい!」
冨岡さんに背中を押されながら、次の岩柱の稽古へと向かう。
本来だったら最後になる稽古だ。
どんなに辛いものだとしても、絶対に乗り切ってみせる。
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作者名:ゼパル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時:2023年8月24日 23時