48:居場所_2 ページ3
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「……彼があの山の鬼を殆ど一人で倒してしまったんだ。だから錆兎以外の全員が選別に受かった。俺は最初に襲いかかってきた鬼に怪我を負わされて、朦朧としていた。その時も錆兎が助けてくれた。そして、気がついた時には選別が終わっていた」
冨岡さんがずっと変わらぬ表情で淡々と語っていく。
「俺は確かに七日間生き延びて選別に受かった。だが一体の鬼も倒さず、助けられただけの人間が、果たして選別に通ったと言えるのだろうか」
「……」
「俺は、水柱になっていい人間じゃない」
「そんな……」
「そもそも俺は、柱たちと対等に肩を並べていい人間ですらない。俺は彼らとは違う。本来なら鬼殺隊に俺の居場所は無い。柱に稽古をつけてもらえ。それが一番いい。俺には痣も出ない。……錆兎なら出たかもしれないが」
冨岡さんは言いたいことを全て言い終わったのか、おもむろに私と自らの湯呑みを手に取り、急須を使ってお茶を注いでくれた。
温かい緑茶が、静かに湯気を立てている。
「わ、私は……そんな事無いと思います」
このまま何も言わずにいたら、冨岡さんとこれ以上会話が出来なくなる気がして、勝手に口が動いていた。
心を閉ざしている彼に、私の言葉が届くとは思わない。
私よりもずっと辛い思いをしながら、新しい型を編み出してしまうほどの鍛錬を重ね、柱にまで登り詰めた彼に、何も知らない私が言っていいのかもわからない。
けれど私の思いを伝える事で、少しでも彼の心を動かす事が出来るのなら、言う価値があると私は思う。
「私は冨岡さんとお喋りする事も、稽古をつけてもらうことも、無駄なことなんてひとつも無いと思います。冨岡さんのおかげで救われた命がある限り、あなたには鬼殺隊にいる意味が…居場所がある」
「……」
「私は錆兎さんに会ったことが無いから、どんな人だかわかりません。でも錆兎さんが今の冨岡さんを見たら、悲しむと思います。冨岡さんは、錆兎さんが守ってくれた命を、どうしてそんな杜撰な扱いをするんですか?」
「それは……」
「錆兎さんが守りたかった未来を、命を、繋いでいきたいって思わないんですか?」
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作者名:ゼパル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時:2023年8月24日 23時