61：星空に願いをかけて＿１ ページ19
.
今日の鍛錬も終わりを迎え、そろそろ寝所に向かおうかと考えていると不死川くんの匂いが風に乗って流れてきた。
｢？｣
稽古場の少し上の方からだ。
あそこは何も無い場所のはずだが、一体何をしているのだろうか。
追いかけていきたいけれど、邪魔になったらどうしよう。
でも気になる。このままじゃ良く眠れない。
｢ちょっとだけなら……｣
草木をかき分け、彼にバレないように細心の注意をはらいながら登っていく。途中で見つけた獣道も活用しながら辿り着いたのは、山の外側の方だった。
茂みの中でふと上を見上げると、満天の星が広がっている。
登っている時には全然気がつかなかった。
街の灯りがない分、いつもなら見えない細かな星まではっきりと見ることができる。
｢……｣
ボーッと惚けていると、足元の小枝に気が付かずにバキッという音が鳴った。
周りが静かな分、大きく響く。
(やばっ！)
｢……A？｣
わざわざ隠れながら移動していたというのに、不死川くんにバレてしまった。
｢お前、何して……｣
不死川くんの少し驚いたような、困ったような表情を見て、追いかけてくるべきでは無かったかもと今更思い始めた。
｢えっと……｣
匂いから察するに、私がここにいることに対しての感情は悪いものでは無い。けれど匂いを追って何となく来ちゃったなんて言ったら、怒られる気がする。
少し様子を見て戻ろうと思っていたせいで、見つかった場合の事は何にも考えていなかった。
｢ハァ……こっち来い｣
｢いいの？｣
｢ああ｣
｢ありがとう｣
彼の差し出してくれた手を取り、茂みから出る。
二人で手を繋ぎながら更に上の方へと登っていくと、少し開けた場所に出た。
｢綺麗……｣
そこは小さな花畑だった。
月の光に照らされて、普段よりも花が綺麗に見える。
｢いい所だろォ｣
｢うん！ それに凄く良い香りがする｣
｢多分これだなァ｣
不死川くんが花畑の横に生えている木を指さした。
小さな黄色い花が何個も咲いていて、意識して見ると、確かにそこからふんわりと包み込むような少し甘くて優しい香りが漂ってくる。
｢こっちこい｣
｢えっ｣
｢良いから｣
不死川くんに袖を引かれ、花畑の中を進んでいく。
花に囲まれて見えていなかったが、大きな丸太が転がっていて、そこに座れるようだ。
｢ン、はいよ｣
｢えっ｣
彼が羽織っていた上着を木にかけて、私に座るように促した。
｢座んねェのか？｣
｢ううん、座る！ ありがとう｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゼパル | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時：2023年8月24日 23時
