三日月:鬼となったもの《上》 ページ15
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無惨に刃が届かなかったあの日、俺は鬼になった。
「あっ、起きた」
「……!?」
どうやら俺は深い眠りについていたらしく、目が覚めると見知らぬ一室に閉じ込められていた。
体は重くて動かせず、声のした方に目線を向けることしか出来ない。
「おはよう、竈門炭治郎くん」
無惨とAが入り交じったような不思議な匂いがする女が、壁際に立っている。
「お前は……」
霧が晴れていくように、いつも思い出せなかった記憶が鮮明になっていく。
「久しぶりね」
横たわる俺に覆い被さるようにして、俺の顔を覗き込む。
白い髪がサラサラと流れ、俺の顔の上に静かに落ちてきた。
「私は刹那。Aの姉よ」
笑った時に目尻が少し上がる所がAにそっくりで、本当にあの日逃してしまった彼女の姉なのだと実感する。
刹那は儚げな表情を浮かべながら、俺の重い体を無理やり引っ張り起き上がらせた。
「貴方にかけていた血鬼術を解いたわ。色々と思い出したかしら?」
「……いつ俺たちの記憶を弄ったんだ?」
「えっ? 嗚呼、それはあの日ね。私が鬼になってAの首を絞めてた時」
「あの日からずっとか?」
「ええ。そうね……せっかくだし、私の血鬼術を教えてあげるわ」
俺が裏切る可能性を考慮してか、さすがに弱点になりそうな事は教えてくれなかったが、これから一緒に行動するからと言う理由で出し惜しみ無く語ってくれた。
「ああ、忘れる所だったわ。はいこれ」
彼女が何処からともなく刀を取り出し、差し出してきた。
「正真正銘、貴方の日輪刀よ」
彼女から刀を受け取り、鞘から抜いてまじまじとこの目で確認する。
「少しだけ細工をさせて貰ったわ」
「細工?」
「ええ、この日輪刀では鬼を殺せないわ。そして貴方も同様に自害することは不可能よ」
「そうか」
見た目には影響の出ない細工とは、一体どんなものなのだろうか。
杏寿郎の形見である鐔もそのままで、拍子抜けするほど以前と何も変わらない俺の日輪刀だ。
少し変わった事と言えば、無惨とは別の鬼の匂いが日輪刀に混ざっているという事くらいだ。
「それから……えいっ!」
刹那が日輪刀の刃先をバキッと砕き、布団の上に破片が落ちる。
「さぁ、刀を修復するようなイメージで刀を思いっきり握りしめてみて」
渋っている俺の手を掴み、無理矢理刃の方に手を置かされる。
しょうがなく言われた通りに力強く握ると、普通に手が切れ、血がボタボタと刃を伝って布団の上に滴った。
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作者名:ゼパル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時:2023年8月24日 23時