59:言葉_2 ページ14
.
『ごめん、お待たせ!』
何かの資料を片手に、師範が病室に入ってきた。
『遅かったですね』
私がそう言うと、彼は困った様子で頬をかいた。
『ちょっと立て込んでてね。もう大丈夫』
『それはお疲れ様です。師範もお茶菓子どうぞ』
『うわぁ、ありがとう。助かるよ』
師範も椅子に座り、神妙な面持ちで彼らを見る。
『それで、杏寿郎からの最期の言葉って?』
普段なら二人を気遣ってから話が始まるのに、今日はいきなり本題に入り出した。
いつもと違う様子の彼に、二人は少し驚いている。
『えっと……俺たちに残した言葉と……炭治郎さんへの言葉です』
天元が毛布の上で手をぎゅっと握り、師範の目を真っ直ぐ見て話し出した。
『煉獄さんは、俺たちに今回のことは気にするなって言ってくれました。柱なら後輩の盾になって当然だ、誰であっても同じことをするって』
『……』
『それから、こっからの言葉はAにも伝えて欲しいって言われて』
『えっ、私にも?』
彼の遺言の中に、私宛の物は無いと思っていたせいで、少し目を丸くしてしまった。
隣にいた不死川くんが少し笑いそうになり、軽く咳払いをする。
『そうじゃなかったら呼ばれねェだろ』
『確かに!』
『……A』
『はい、すみません』
少し低めの声で師範に注意されてしまい、すぐさま余計な会話を辞め、また天元の話に集中する。
『煉獄さんは……"胸を張って生きろ。心を燃やせ……己の弱さや不甲斐なさに打ちのめされたとしても、歯を食いしばって前を向け……もっともっと成長して、今度は君たちが鬼殺隊を支える柱になれ"って……』
彼の握りしめている拳の上に、涙がポタポタと落ちていく。
嗚咽を堪えるように唇をかみ締め、少し俯いた。
『そして最後に炭治郎さんへ、"後は頼んだ。俺はお前を信じている。"と……』
天元が鼻をすんすんと鳴らしながら、手で頬の涙を拭う。
『最期まで杏寿郎らしいな。宇髄くん、教えてくれてありがとう』
『っはい……』
師範が優しく微笑み、天元と不死川くんの頭を優しく撫でてから、静かに部屋を出ていった。
師範はいつでも優しい匂いがする。
どんなに悲しい時だって、どんなに辛い時だって、相当な事がない限り変わることの無い匂いだった。
けれど今は、それを覆い隠すほどに大きな悲しみの匂いと、怒りの匂いがする。
煉獄さんへの感情と、上弦の鬼、否、全ての元凶である鬼舞辻への怒りだろうか。
6人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゼパル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/bf379540b81
作成日時:2023年8月24日 23時