過去と今と未来とAnother story (ページ18)

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混乱している思考の中で、響き続ける

“だれ？”

という言葉

絶対的な信頼、彼らは気づかないフリをしている依存

そんな彼らは、偶然の重なりによって引き裂かれてしまった

前日に酷いパニックを起こした目黒
数日前から精神が不安定だった向井

さっきの一言と取り乱した彼の様子を見ただけで

もう自分のことを思い出してくれないのではないか、
という強い不安を覚えた

いつもはポジティブに気持ちを切り替えて、どうにか思い出してもらおうと奮闘していただろう

仕事の依頼があってから付き纏っていた不安

今までは、不安を感じたらすぐに、彼が落ち着かせてくれていた
でも精神が不安定になってきていた彼は、自分との距離を置いていて頼ることができなかった

昨日の事はほとんど覚えていない

仕事に向かっている時に見た彼の表情は、虚で大丈夫かと本当に心配になるくらいだった

きっとそれを見た自分の顔は、心配と不安が混じって酷い顔をしていたと思う

今だってそう、起きたらいきなり、だれ？なんて言われて戸惑わない方が無理だ

目の前の彼を落ち着かせようとするも、また拒まれたら、今の自分には精神的ダメージが大きすぎる

少し離れたところで見ている彼の口からは、知らない人の名前
苦しそうに、縋るように呼んでいる

日常の会話の中で昔の話はしないから、旧友の名前なんて分からない

落ち着かせようとしている深澤は、優しい声で諭す

「康二くん、俺やだよ、思い出してよっ！」

小さく名前を呼ぼうとしただけなのに、気がつけば叫んでいた

ほら、呼び方だって不安から呼び捨てじゃなくなっていて、自分でも分かるくらいに不安に押しつぶされそうだった