夢番地 *black* (ページ44)

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目「おれさ、めちゃめちゃ好きな選手なの。」

「....、」

目「俺がドリブルをめっちゃ練習するのも、フェイントの掛け方とかタイミングとかさ、ぜーんぶ伊藤選手の真似。
まだまだ下手だけど、ちょっとは似てるでしょ？」

目「全部を知ってるとは言わない。
それは伊藤さんに失礼だと思うから。
でも、いちファンとしては気に食わない報道ばっかだったし、自分なりに調べたりもしたんだ。」

Jリーグのシーズン中。

静岡のチーム成績が良くなくて、サポーターのフラストレーションはキャプテンの伊藤選手に向いていた。

ーーー海外から帰ってきたくせに仕事してない
ーーーやっぱり年齢のせいなのか
ーーーそもそもやる気がなくなってるのではないか

厳しいプロの世界だ。

＂結果が全て＂なのは当たり前かもしれないけど、それでも今まで日本サッカーを牽引してきた人に対してあまりに酷すぎる言い様だった。

そして、事は起きてしまった。

ある試合中、静岡チームのゴール前では激しい攻防プレーがあって。

伊藤選手がゴールを防ぐのにヘディングで高く飛んだ時、味方のキーパーもボールを止めようと一緒に高く飛んでいて、2人は空中で激しくぶつかった。

そして、どちらも地面に叩きつけられる着地となった。

ーーーピピッー！

試合が止まる。

うずくまりながらもなんとか自分で立ち上がった伊藤選手と、全く動くことのないキーパーの選手。

それに気づいた伊藤選手はすぐさま駆けつけるも、キーパーの選手はピクリとも動かない。

担架で運ばれていく姿はテレビ越しでも衝撃的な映像だった。
必死に声を掛け続けていた伊藤選手の姿も忘れることはない。

結局、そのキーパー選手は
数日ののち帰らぬ人となった。

死因は脳挫傷。
地面に落下した際、運悪くゴールポストに頭を強く打ちつけていて、大きく脳を損傷していたという。

プレー中の事故だった。
伊藤選手だってわざとじゃない。

それなのに、一部の過激なサポーターから始まった誹謗中傷は瞬く間に世界中へと発信された。

ーーーあれはわざと
ーーー伊藤まで飛ぶ必要なかった
ーーーチームメイトを信用していない表れ
ーーー周りを見ない自己中プレー
ーーー伊藤のせい
ーーー人殺し

連日の報道も過熱していた。
事故とは全然関係のない、それ以前の激しい接触プレーの一部を切り抜いた映像で「伊藤選手はもともと当たりが強い選手で、、」などと解説するコメンテーターもいた。