夢番地 *black* (ページ43)

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目黒side

そんなに遠いところまで行ってないはずなのに、宿の周りを探してもいなくて、宿の中もフロントの人に聞いたけどそれらしき子は戻ってきてないって言われるし。

あと、どこか行ける場所といえば、、

早朝のランニングコースになってる宿のすぐ裏にある神社かな。

俺はとにかく走った。

ーーー

神社の境内裏に、探していた姿を見つけることができた。

足を抱え込んで座る彼女は
とても小さくて今にも消えてしまいそうだった。

目「いとうさん、」

「、、.....。」

目「隣、座るね」

心配しているだろうからラウールに「神社にいた」とだけメッセージを送る。

伊藤さんは顔をあげてくれないけど、もう逃げ出さないってことは座っていいんだと勝手に肯定にとらえる。

さっきアイツらが言っていた

ーーー伊藤蓮翔 ( いとうれんと )

日本中の誰もが知ってるその名前。

ワールドカップに3大会連続で出場。

強豪国のどんな相手からも鋭いドリブルで斬り込みゴールを奪うストライカーで、絶対的エース。

それに...

俺が、もっとも憧れる選手だ。

まさか、伊藤さんが

あの＂伊藤蓮翔＂の娘だったなんて。

「伊藤」というありふれた苗字で分からなかった。

でも、そう聞いた今、これまでの色んなことが、点と点が線になるように繋がっていく。

静岡から引っ越してきたのも、
伊藤選手の古巣は静岡のチームだし。

伊藤さんがサッカーに詳しいのも、
ボールの扱いになれているのも、
あれだけ走れるのだからきっと運動神経だっていいはずだ。

それも全部、あの伊藤選手の娘と聞いたら腑に落ちた。

伊藤さんが転校してきて、
あの淋しそうな瞳をしていたのもなんとなく理解できたんだ。

去年、亡くなった｡

37歳という若さで。

死因は自殺。

自宅の寝室で首を吊っていたという報道が連日ニュースにされていた。

「...ひとごろしなんて、してない...っ、」

目「うん。」

大丈夫だよ、俺は知ってるつもりだ。
あれだけ大好きな選手だったんだから。

ようやく話してくれたのに、
そんな言葉を口にさせたくなかったな。

少しでも「大丈夫」が伝わるように、
俺は伊藤さんの背中をさすった。