夢番地 *black* (ページ22)

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「ーー、、」

一瞬だった。

俺の目の前から消えて、その姿を必死に目で追ってる時にはすでに抜かされていることに気づく。

やっば、

動け、俺の足。

そこはなんといっても男女の力の差がある。
すぐに反応した俺は伊藤さんに追いつくことができてもう一度前に立ちはだかった。

きっと、体勢を立て直すはず。

抜くタイミングを見るためにここで呼吸を整えるはずだ。

目「ーーえっ、」

ーーーパスッ

気づいた時にはボールはネットを揺らしていた。

彼女は体勢を整えることなんてなく、ほんの少しだけフェイントをかけたと思ったらそのままドリブルでスピードを上げて俺を振り切った。

そのまま華麗にゴール。

「ふふっ、いっぽん。」

ゴールからボールを取り、振り返った伊藤さんは俺に笑顔を向けてそういった。

うん、ホントにあっけなく1本取られた。

こういう展開を望んでて仕掛けたのはもちろん俺自身だったんだけど、

こんなに上手いと思わなかったのと、、

何より俺が唖然としてしまったのは

ーーーあのドリブル突破の仕方

俺が憧れてならない選手の得意なやり方だったから。

すると、俺の足元にボールが転がってくる。

「チェンジ、するよね？」

よし、と小さく意気込んで、
あまりにも自然に俺の前にディフェンスとして立った伊藤さん。

そして、

その瞳はあまりにもまっすぐ俺を捉えていて。

.....いつもはなかなか目を合わせてくれないのに、

もう、どれだけ俺を夢中にさせたら気が済むんだこの子は。

目「ーーっ、」

俺もドリブル突破は得意だ。
少しずつプレッシャーをかけつつゴールまでの距離を詰めていく。
それでも食らいついてくる伊藤さんを、なかなか振り切ることができない。

なにこれ、他の部員より全然上手いんだけど。

「ぁ、！」

ーーーパスッ、

目「よっしゃー！一本っ！」

なんとかフェイントをかけて意地でもゴールにねじ込んだ。

「、すごい。あの体勢でシュートに持っていけるの、？」

目「誰かさんが全然抜かせてくれないから強引にいくしかなかったの」

「ふふっ、」

目「あのさ、」

「、？」

今なら聞けるだろうか。

なんでそんなにサッカーできるのか。

目「...、もう一本。お願いします。」

「わたしでよければ何本でも、」

目「ん。じゃあまたチェンジで。」

ダメだ。まだ聞けない。

とりあえず今はこの時間を全力で噛み締めよう。