夢番地 *black* (ページ16)

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解説者『今日の伊藤はいつにも増して動きがいいですよね！
もし逆転弾も伊藤が決めたならハットトリックになりますからねー。後半も楽しみです！』

少し長い髪の毛をゴムバンドで止め、
腕にはキャプテンマークを巻いている。

その背中には「10番」の文字が刻まれ、

スタンドのサポーターも同じユニフォームを着ている人がたくさん映っている。

ーーー伊藤蓮翔 (いとうれんと)

その人こそ、去年亡くなった私の父だ。

解説者『ゴーーーーーーール！！！
やりました！また伊藤がやりました！！
日本3点目、逆転です！！
伊藤はハットトリック達成だー！！』

どんなに阻まれようとも
スピードのある得意なドリブルで相手を抜き去っていく。

そのままスピードに乗ってゴール前にボールを運べば、まるで招かれているかのようにネットに吸い込まれていく。

その鮮やかすぎるプレーに魅了されるファンがたくさんいて。

本当に格好いい、自慢のお父さんだ。

解説者『試合終了！日本、W杯出場決定です！！』

『今日のインタビューはこの男しかいないでしょう！
伊藤蓮翔選手にお越しいただきました！！』

汗を拭いながら笑顔で答えていくお父さん。

伊藤「今日ね、娘の誕生日なんですよ。
だからなんとしてでも自分で点を取って勝ちたかったし、キャプテンとしてもチームをW杯に導くことができて本当に嬉しいです！」

ーーープツッ

インタビュー終了とともに番組も終了しDVDの再生が終わると真っ暗な画面に。

一気に現実へと引き戻される感覚になる。

やだな、まだ戻りたくない。

このままずっと続いていて欲しかった。

「ふぅ、」

いつからか癖になった深呼吸をひとつしてまた別のDVDをデッキに差し込む。

あれほど目にしたくなかったはずなのに、

そんなの嘘のように、どんなにマークされようとも不利なゲーム状況になっても、心からサッカーを楽しみ戦い続ける格好いいお父さんに夢中になって画面に釘付けになった。

気がつくと深夜になっていた。

あと少しでお母さんも帰ってくる。

「もう、寝ないと。」

明日からは朝練もある。

ベッドに入れば自然と重くなる瞼。

ほんの少しかもしれないけど過去から進めた気がして嬉しかった。