記憶 ページ1
.
『借金があるようじゃ』
『従っていればいい』
夜の色に染まった小さな部屋の中。
いつも通り、眠りに就こうと目を閉じたのと相前後して、脳裏にそんな言葉が響く。恐らく、自分が人間で会ったときの記憶の欠片だろう。
堪らずに目を開く。
人工の眼球に映ったのは、薄暗さに己の色を汚された天井だけ。
何かの気の所為、そう信じて再び目を閉じる。しかし、瞼の裏にいる顔が黒塗りの人々からの言の葉は止まることを知らず。
『怖い』
自分の前世を思い出す際に、時折沸き出る感情。
それがどうしてだか、いつもより強く、大きく、そして重くて。
「怖い……怖いよ」
我慢できずに出てしまっていた声。
ハンモックの布を挟んで下にいる彼に聞こえていないことを切望することしか、今の僕にはできなかった。
「……ヴォルフ」
「……おやすみ、ルーくん」
一瞬、起きていたのかと拍動のリズムが乱れた。が、それは勿論寝言。それを考えるよりも先に察した自分の脳は、我ながら優秀だと思う。
しかし、彼が寝ているという事実を他の角度から考えてみれば、睡眠中の彼に話しかけても気に留めてくれない上、自分も悩みを吐露できてすっきりするのではないか。
「……あのね、ルーくん」
.
1人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:コトハ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/classicaloid/
作成日時:2018年1月30日 22時