三百二十夜。 ページ21
『神田…』
「はー…何でお前がそんな顔するんだ。気にするな、俺はまだいけ……わっ、びっ…いたのかよお前!?」
立てかけてあった看板の上に乗ってじーっと見ていたティムに驚く神田は、そのままティムと話し始めた。サクは私のバッグの中でぐっすり寝ている。
大丈夫という神田の言葉を私は信じるしか出来ない。咎落ちの可能性もスーマンの状態とは違いすぎて確定したわけじゃないのだ。あれは未だ神田の身体に馴染めていないイノセンスだから、とそう考える他ない。いや、私自身がそう信じたい。これ以上仲間が傷ついていくのを見るのは嫌だ。
「……ちょ、オイ」
『えっ、神田何でティム泣かせてるの!?』
「いや、待て。おかしいだろ。突っ込むところが」
『ティム、大丈夫?』
「(水についてはスルーか)」
気持ちを切り替えなくては。私はさらりと落ちてきた髪の毛を耳にかけながらティムを両手で包み込み、よしよしと撫でてみる。困惑気味の神田がこちらを見ているのが少し面白かった。
「だいぶ伸びたんだな、髪。邪魔じゃないのか」
『切りに行く暇なんてなくて。でも前髪が長いのは便利よ。額のこれも隠せるし』
「…まぁ、見知った奴と遭遇した時には便利だな」
『でしょ?』
明るく笑顔を見せるAの横顔を、神田はじっと数秒間見つめる。
俺やもやし、人の心配ばっかりするこいつにも、背負っているものがある。初めて会ってから気付けば数年の月日が流れていて、その中で色々あった。
こいつらの互いの気持ちについては薄々気付いていた。それがやっと結ばれたんだ。
この先どれほどの試練が襲ってくるのか分からない。こいつの笑顔が崩れる時も来るんだろう。
絶対に他人の前で口にすることはない、それにガラでもないが、俺はただこいつらが笑顔で語り合える未来が来ることを願うしかない。
「…俺の二の舞にはなってくれるなよ」
修理を依頼していた客へ品物を渡すAの耳に、ポツリと呟いた神田の言葉は聞こえていないようだった。
「おや随分と良い時計だが、これはいくらかな?」
「あ?それは修理したモンで売り物じゃねぇよ」
「残念、売り物じゃないのか…」
修理した品物も少なくなり、品物を渡せば皆笑顔で帰っていく。その姿を見て温かくなった気持ちのまま、新たに取りに来た品物を手渡したその時、神田と話す人物の声に聞き覚えがした私はゆっくりとそちらに視線を向けた。
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あずさ - お忙しいとは思いますが、更新楽しみにしています!! (2020年1月28日 18時) (レス) id: dc5172fd12 (このIDを非表示/違反報告)
Rico(プロフ) - こんにちは。アレンくんと夢主ちゃんの今後が楽しみです。お忙しいかもしれませんが、更新頑張ってください! (2019年8月17日 1時) (レス) id: 3a6a1a4cba (このIDを非表示/違反報告)
歩。(プロフ) - 更新お待ちしてます! お忙しいとは思いますが楽しみにしています! (2019年4月23日 4時) (レス) id: f251146aad (このIDを非表示/違反報告)
ノルン(プロフ) - 楽しみにしてます(`・ω・´)ゞ (2018年10月20日 19時) (レス) id: 265a916812 (このIDを非表示/違反報告)
パオパオ - めちゃおもしろいです!!!続き楽しみにしてます!!!! (2018年1月20日 21時) (レス) id: 89165a1c38 (このIDを非表示/違反報告)
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