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目撃された獰猛な生き物というものを保護するべく、私は植物を操り、徐々に追い囲んでいくという計画性とスピードの問われる働きを余儀なくされた。
周りの魔法使いたちも手伝ってはくれていたのだが、森には様々な植物がある。もちろん自分の意思で動く植物も。今回はそんなクセのある植物に慣れていない魔法使いが多く、ほとんど私一人でやったと言っても過言ではない。
どっと疲れた身体を引きずりながら、アトリエに帰り、お気に入りの椅子に腰を下ろした。
一人静かな部屋で月を見ていると、無性に寂しく感じてくる。無意識のうちに私はある人の名前を呼んでいた。
「…キーフリーに会いたい…」
あの柔らかな笑顔に癒やされたい。優しい声でまた名前を呼んで欲しい。
一度思い始めたらキリがなかった。学生時代の記憶が蘇ってきては懐かしく、寂しく感じる。
独り立ちしてから、こんな気持ちになったことなんてなかったのに。
「魔警団に会ったからだ…絶対そうだ…」
ブツブツと嫌みを呟きながら出来たての時間が繰り返されているシチューを皿によそって口へと運ぶ。コーヒーを最後に飲み、疲れを取る為にもお風呂に入ることにした。
私はよほど寒い日かゆっくりしたい日以外は浴槽につかることはほとんどない。今日は早くベッドで眠りたいという理由でシャワーでパパッと済ませた。
「はぁ〜…大分すっきりした。ココ、気付いてくれたかな」
森に向かう前にほんの少しの小さな魔法だけど、花が雪のようにふわふわと降ってくる魔法をかけた。落ちた地面の性質が良ければそのまま芽吹くこともある花だ。
最後にコーヒーを飲んで眠ろう、そう思ってコップを用意していると扉がトントンと二回ノックされた。もう夜も遅い。一体誰だろうか。
髪の毛を水分を取りながら、私は扉をおそるおそる開けた。
月夜と共に目に映った綺麗で懐かしい色。口角の上がった表情。それを最後にAの意識は途絶えた。
・
・
しばらく聞いていなかった卵の焼ける音がする。同時に、サクサクとパンを切る心地よい音も。
「――――っ!」
いつもの自分のアトリエでは聞くことの無い音に違和感を覚え、バッと上体を起こす。
キョロキョロと部屋を見渡す限り、まぎれもない自分のアトリエだ。
しかし、寝室を挟んで向こう側にあるキッチンに見えた人影に私は自分の目を疑う。
その人はこちらに気がつくと、フライパン片手ににっこりと微笑んだ。
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アストル(プロフ) - 椿原よるさん» 植物たちと会話できるということですね!!その時の状況に応じて自分だけに聞こえるようにしたり全員に聞こえるようにしたり出来るのも良いですね…!前回の嬉しいコメントと今回の案、ありがとうございます、椿原よるさん´`*是非使用させて頂きます! (2018年3月3日 7時) (レス) id: debaada4f5 (このIDを非表示/違反報告)
椿原よる(プロフ) - ぜひ、私からも案を出させてほしいと思い、考えてみました。植物たちの声が風に乗って聞こえてくる…というのは如何でしょうか。(その魔法を発動した人にしか聞こえないというのもいいかと) お役に立てたら、嬉しいです。 (2018年3月2日 22時) (レス) id: 84ddbc797d (このIDを非表示/違反報告)
アストル(プロフ) - 月夜さん» あぁ…なんて素晴らしい案なのでしょう…!!話の流れに沿わせるために付け加えたりするかもしれませんが、月夜さんの考える魔法を使える場面を思いついたので楽しみにしていてくださいね!本当に案をありがとうございます! (2018年3月2日 20時) (レス) id: 60a9ea40e3 (このIDを非表示/違反報告)
月夜 - 再度コメント失礼します。魔法の一案として、なのですが…植物と風ということで花弁や葉を使い、つけた人の気配を探ることが出来る能力。 風で飛ばして通信機のようにすることも可能などはいかがでしょう(戦闘っぽくなりますが、迷子防止などに役立ちそうな...) (2018年3月2日 0時) (レス) id: 016749241a (このIDを非表示/違反報告)
月夜(プロフ) - 本当に面白いです!!なかなかこの漫画の夢ないので!更新、頑張ってください!!! (2018年2月25日 16時) (レス) id: 016749241a (このIDを非表示/違反報告)
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