飄々の蝶

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『急にすみません
お電話変わりました、加賀美Aと申します
単刀直入に言えばお宅のお嬢様が家に押しかけてきましてね

至急住所を言いますので
来ていただいてもよろしいでしょうか』




電話先の人は慌てた様に
”ちょ、ちょっと待ってください！”、と
状況が読み込め無い様だ




『とりあえず住所を言いますから来てください・・・
えぇ、そうです
お宅お嬢様です


はい、はい、住所は
東京都 文京区、』





住所を伝えピッと電話を切る




『はい』



スマホを返しても
彼女は目線をあげず、ずっと体育座りして顔をうずめている



腕には無数のリスカ跡が
痛々しく残っている




死にたい衝動から手首を傷つける
辞めたいと思っても辞められない


一種の麻薬の様なものだ、なんて
軽々しくテレビで言っていたが

そんな生ぬるいものでは無いだろう




人生の中で何故生きているのかを見いだせず
それでも死ぬことは怖くて



どうしたら良いか分からなくて
でも助け船は来ない


自身を傷つけることで
生きていることを実感するんだ




「あの、すみません
巻き込んでしまって」


『いえ
警察に連絡はしなかったんですか？』


「・・・・してないっす」



『・・・・はぁ』






彼女の将来が消えてしまうからですか、なんて
言える雰囲気でも無いのでため息を数回ばかりつく





『直ぐに警察に連絡するべきです

貴方、ホストでしょう？
危機管理をもう少し持った方が良いですよ』



「ぇ・・・なんで、ホストって、」



『彼女の身なりと貴方の容姿
玄関を開けた時の微かなお酒の匂いですよ』




そう言うと小さく
”すげぇ”なんて零す



『・・・あの、貴方の容姿って言ったんですよ
そんなキラキラなホストの恰好してりゃ
誰でも分かりますよ』


「あ」





自身の恰好を確認し
恥ずかしそうに頬をかく





「・・・あの」


『次は何ですか』



「あ、っ、と
彼女の事、なんですけど」




私の後ろにいる彼女に目線を落とし
少し遠慮がちに



「穏便に、済ませたいんです」



と言う



『はぁ』


「警察沙汰にもしたくないし
もう二度とこんなことしない様にしてくれれば
・・・それで良いんです


あ、勿論お金は、その・・・払いますから」




『・・・あぁ〜、面倒くせぇ〜


お金は要らないです
彼女が払うならともかく貴方が払う必要はありません


ただし、全て渡しに任せてください』





年始早々、運が無いな

私は

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