27 ページ27
.
五年前
.
「 … 」
その日は、母が殺された日だった。
.
二人で政府の幹部に呼び出された日。
母は柄にもなく、私の手を取って歩いた。
「 もうそんな歳じゃないのに 」
そう言ったけど、たまにはいいでしょ、と笑う母を見て私は離れないように母の手を強く握った。
母の手は、微かに震えていた。
その数時間後、
目の前で母が殺された。
最後に見た、泣きそうなのに無理して笑った母の顔。
大人は、容赦せず次は私に手をかけようとする。
「 恨まれるくらいなら、最初から殺した方がマシだ 」
血の着いた何かを持ちながら、私に近寄るのは母を殺した張本人。
いやだ、殺されたくない。
怖くなって、必死になって逃げ出した。
来たことも無い、広い建物の中で必死に逃げる。
大きな足音が後ろから迫ってくる。
それでも死ぬ気で建物から出た。
警備員に待ちなさい、と言われて覚悟したけど、
1発腹を殴ったら倒れ込んだ。
.
「 ……おかあさん 」
ここがどこかも分からないくらい逃げた。
見えるのは、大きな川。
母を殺したあの男の言葉を思い出した。
「 恨むくらいなら、死んだ方が、 」
朦朧とした意識の中で、川のフェンスに足をかけた。
「 っお前！ 」
後ろから声をかけられ、見つかったか、と諦めたけど、
「 …誰 」
その声は私の知らない男の人だった。
.
「 名前は？ 」
「 …A 」
「 親は？ 」
「 っ… 」
「 …悪い 」
涙を流す私を見て、目の前の男はそう謝った。
「 帰る家はある？ 」
「 …ある 」
「 1人で帰れる？ 」
「 …帰れない 」
子供でもないのに、見た目とは裏腹に優しいその人を頼った。
.
「 ここ私の家、ありがとう 」
今日から1人の、私の家。
きっと追っ手が来るから、すぐ引っ越すんだろうけど。
「 次もあんなことしたら、俺が怒りに行くからな 」
「 …わかった 」
「 じゃあな 」
そう言って帰るその人を
「 まって 」
咄嗟に呼び止めた。
「 名前は？ 」
「 岩本照 」
名前の通り、綺麗な笑顔を見せて、その人は帰っていった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 333人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SnowMan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
a.(プロフ) - ちなこさん» 読んでいただきありがとうございました、感動したと言っていただけて本当に嬉しいです、こちらこそありがとうございます^^* (2020年7月16日 14時) (
レス) id: b266b51c87 (このIDを非表示/違反報告)
a.(プロフ) - ソニックマニアさん» 読んでいただきありがとうございました、初めてファンタジーのお話を書いたので不安だったのですがそう言っていただけて本当に嬉しいです^^ (2020年7月16日 14時) (レス) id: b266b51c87 (このIDを非表示/違反報告)
a.(プロフ) - クレーンゲームに住む化け物さん» お読みいただきありがとうございました^^ (2020年7月16日 14時) (レス) id: b266b51c87 (このIDを非表示/違反報告)
ちなこ(プロフ) - すっごくすごく素敵で感動しました。素敵な時間を過ごせましたありがとうございました (2020年7月14日 1時) (レス) id: 3adce2c6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ソニックマニア(プロフ) - はじめまして。ファンタジーは読み進まないことが多いのですが、とても読みやすく最後まで一気に楽しませていただきました！他の作品ものぞかせていただきますね(^^)ありがとうございました。 (2020年7月13日 7時) (レス) id: 8e1cd423bc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：a.
| 作成日時：2020年7月12日 18時
