伊瀬谷四季の誕生日 ページ7
雨の音で目が覚めた。枕元に置かれたスマホを手に取り、仰向けの体勢のまま今から30分後に鳴る予定のアラームをオフにする。霧がかかったようにぼんやりと霞んだ視界の中、慣れた手つきでチャットアプリを開いて、たくさんきている通知のひとつひとつを確認していく。
「すげー、12時ぴったり」
それは普段自分が活動しているユニットのグループトークだった。仲間であり、尊敬する先輩達からの祝いの言葉を噛み締めるように四季はメッセージを目で追う。スマホ片手にニヤついていようが、どうせ今は一人なのだから誰も見てはいない。満たされた気分になりながら、ようやく四季は体を起こす。そこで気付いた。
「あれ?プロデューサーちゃん……?」
芽生えた不安を払うように、いくら画面を指を弾いても愛しい恋人からのメッセージは無い。ガツンと頭を叩かれた様な衝撃だった。それから酷く己を恥じた。どこかで付き合っているのだから祝って貰えるものだと勝手に思いこんでいたのだ。自惚れにも程がある。消えたい。あ、でもハイジョ続けらんないのは嫌だなぁ……。すっかり眠気の吹き飛んだ頭でぐるぐると考える。とにかく支度しないと。ご飯食べて、歯磨いて、それから。
思えば、雨の日の朝はいつだって少し憂鬱だった。
「こんにちはっす!他のみんなは授業の関係で遅れるみたいで────あれ?」
事務所の扉を開けると、そこに広がるのはこの場には似合わない静寂だった。それはここにいるのがプロデューサーと自分だけだからだと四季はすぐに気付く。
「四季」
近付く足音。やさしい声。気付けば彼女は目の前にいて、何かを握らされる感触にようやく視線を向ける。それは可愛らしいピンクのリボンでラッピングされた小さな箱である。
「……え?」
「直接言いたかったんです。もう嫌ってほど聞いたかもしれないけど私からも言わせてね。誕生日おめでとう、四季」
ふんわりと漂う春の匂い。プロデューサーはいつだって、どこか花の匂いがする。人工的に造られたものじゃないそれが四季は好きだった。
似合うと思って買ったんだけど好みじゃなかったらごめん、四季の言葉を待たずに彼女は照れくさそうに言う。口振りからして恐らく身に付けるものなのだろう。それを確かめるのは、ひとつの傘を共有しあう帰り道でいい。何より先に貴女を抱き締めたい。
報われなくてもそれは幸せな恋だった→←天ヶ瀬冬馬と付き合ってる
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おむらいす(プロフ) - ふわふわさん» 読んで頂けただけでなく、そんな風に言って頂けて本当に本当に嬉しいです。とても、励みになりました。更新ペースは遅いですがまた立ち寄って読んで頂けたら幸いです。ありがとうございます! (2018年3月25日 0時) (レス) id: 64dc1c1c42 (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわ(プロフ) - 素敵な作品に出会えて、とても嬉しいです。お身体に気をつけて、更新応援しております。 (2018年2月26日 17時) (レス) id: 3dcd01e362 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おむらいす x他1人 | 作成日時:2017年10月24日 3時