天ヶ瀬冬馬は励ます ページ4
(天ヶ瀬冬馬視点)
やってしまった、と思った。思った所で吐いた言葉が戻ってくるはずもなく呆然と立ち尽くすAに募るのは罪悪感と後悔。はっとした様子で頼りない謝罪を零しながら地面にばら撒かれたそれを拾う彼女に、今日ほど自らの性格を呪った日はない。
天ヶ瀬冬馬は彼女への好意を自覚していた。そこに至るまであらゆる葛藤があったが、それはまた別の話である。当然、そんな冬馬の心中を知るはずもないAにとって自分という人間がただの「アイドルの天ヶ瀬冬馬」でしかないことも冬馬自身よく理解していた。女性と距離を縮めるスキルなんて世辞にも恋愛経験が豊富とは言い難い冬馬には持ち合わせていない。いつか自然と話せる日が来て、そうしたら。漠然とした願いを胸に、密やかに想いを募らせてきた。
「ごめんなさい」
それが、こんな。
彼女の顔をこんな近くで見たのは初めてかもしれない。しかし冬馬にとってそれよりもこんな顔をさせたのが己であることの方が何倍も重要だった。こんな顔をさせたいわけじゃなかった。こんなことを言いたかったわけでも、言わせたかったわけでもない。自分のユニットの一人である伊集院北斗であればこんな時気の利いた言葉一つくらいぽんと言ってやれるのだろう。でも、ここにいたのは天ヶ瀬冬馬だけだった。
気付けば腕を引っ張っていた。上手く言葉に出来ないぶん、そのまま彼女を胸に抱き寄せる。驚いた様子でこちらに向けられる濡れた双眸。天ヶ瀬冬馬にとって何もかもが愛おしかった。励まそうと出てくるのは不器用な言葉ばかりなのに、二つの瞳はゆらゆら揺れて、やがてゆっくり細められる。この時、ようやく二人の時間は動いたのだ。
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おむらいす(プロフ) - ふわふわさん» 読んで頂けただけでなく、そんな風に言って頂けて本当に本当に嬉しいです。とても、励みになりました。更新ペースは遅いですがまた立ち寄って読んで頂けたら幸いです。ありがとうございます! (2018年3月25日 0時) (レス) id: 64dc1c1c42 (このIDを非表示/違反報告)
ふわふわ(プロフ) - 素敵な作品に出会えて、とても嬉しいです。お身体に気をつけて、更新応援しております。 (2018年2月26日 17時) (レス) id: 3dcd01e362 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おむらいす x他1人 | 作成日時:2017年10月24日 3時