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帰り__20時過ぎ

伏黒は最後にもう一箇所寄って欲しいと伊地知に頼んだ




『結構種類残ってる……!』


ショーケースの中で鎮座するケーキはどれを取っても宝石のような魅力で、店に入ったAは途端に釘付けになった


「昼はカフェ、夜はバーみたいに酒を出すメニューに変わるらしい
コンセプトがケーキを楽しむ店だから、この時間でも種類があるんだろうな」

『ほぇー』


そうして伏黒がケーキを選び、支払いを済ませ、さあ帰るか、と店を出た



『って、違ーう!!』



ここまでの一連に違和感もなく流されていたAは、支払いの際に渡されたケーキ箱を見ていて、突然我に返る


『おかしいよ、だって今日は恵の誕生日なんだよ!?
今日行ったトコ全部私が行きたいって言った場所で…このケーキ屋さんも!』

「気付くの遅いな」

『なんでッ……』



「オマエ最近笑えてないだろ」


想定外の返答に宵闇色が大きく見開かれる


『そう…かな』

「中川さんが居なくなってから頻度もだが、どこかぎこちなく見えた
心から笑えてねえなって思ってた」

『……』


これには正直驚いて、出ようとしていた否定の言葉を呑み込んだ


愛想笑いをしたつもりはない
けど確かに心の隅に、少しの躊躇いはあった


今、私が関わる人たちは皆、ナカガワを知っている


偶に過ってしまう

ナカガワがいれば、もっと皆は笑顔になっていた
ナカガワがいないのは、宵宮(私たち)が壊してしまったから

呪って然るべき相手を、どうして皆は責め立てず笑い掛けてくれるのか


責め句が欲しい訳じゃない
でも、その優しさに胸が締め付けられる時がある

罪悪感に苛まれるのも、堂々巡りでキリがなくて
無意味なのも分かってるけど

やっぱり五条さんみたいには割り切れなかった



「でも今日は、笑えてたな」



心中なんて知る由もないだろうに、慰めるように、声が優しくて温かくてじんわりと目元が熱くなっていく


『__うん……!』


声が震えて、言葉が続かなかった
同時に迫り上がって眼から溢れそうなものを手で拭い取ると、言葉の代わりに笑顔をつくってみせる

不恰好な笑顔だろうけど、泣くよりきっと良い

恵も口元にちょっぴり弧を描く



ほんとに、ほんとうに今日は楽しかった

気兼ねなんてなかった。ただひたすらに楽しかった


そっか、その為に恵は



『__ありがとう 恵』




あれ?なんだろ…
心臓バクバクうるさい……




けど、いやじゃない。不思議な気持ち

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作者名:さくや | 作成日時:2023年10月10日 17時

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