青年 ページ33
今回は、前と違う部屋だった。
沢山の紙の書類が机の上に重なっている、オフィスのようなところ。
「…先生は優しいですよね。きっと仕事が大変なのに」
「なあに、これが俺の仕事なんだよ」
カウンセラーはそう笑ってコーヒーを啜った。
「また誰かと会っていきなり記憶が戻る…なんて事は、もう避けたいからな。できるだけ人と会わないようにするんだぞ」
「はい。ありがとうございます」
カウンセラーとの他愛のない話の中、Aはふと、目の前の書類に目をやった。
といっても、上に書類が重なっているので一部分しか見えないのだが。
“憂鬱の___
____が高く、また黒狐にも____”
なんのことだろうと暫く見つめていたが、カウンセラーに名前を呼ばれて、意識をそちらに移す。
気づけば、職員がドアから顔を出してこちらを伺っていた。どうやらカウンセラーを呼びに来たらしい。
「すまん、急用ができてしまった。一人でいても大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
「すぐ戻ってくる」
そう言って、カウンセラーは忙しそうに部屋を出ていった。
もう、30分はしただろうか。
Aは一人、机の上で髪を弄ったり、手に顎を乗せたりと、ひたすらにカウンセラーが戻ってくるのを待っていた。
流石にずっと座っているのも疲れたので、伸びをしようと立ち上がろうとする。
と、その時、ドアが開いた。
「んー、今日も疲れたなー!……あれ?」
入ってきたのは見知らぬ青年だった。
黒髪で、ほっそりした体型。どこか飄々とした雰囲気は、前にも感じた事がある気がする。
「君は……あー、えっと、Aちゃんかな?どうしてここにいるの?」
「え…あの、先生を待っていて…」
「…へー。……じゃあさ、今まで退屈だったんじゃない?俺が話相手になってあげよう!」
青年は幼い笑みを浮かべ、Aの返事も聞かずに隣にドサッと座った。
「あの、私先生にあまり人と会わないようにって言われてて…」
割と整った顔をぐい、と近づけ、青年はまたニコリと笑う。
「まあ、俺が君の話を聞きたいってのが一番だけど……俺と二人だけの秘密ってことで、だめかな?」
「私の話、ですか…?」
「やめてくださいよ……何でそんなこと言うんですか?」
「そんなことって言われても、これが俺の考えなんだけどねぇ」
そう言って、青年は先程と同じ言葉を繰り返した。
「その大好きだったって人と、これからも一緒に暮らせばいい」
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葵 - 続きを読むのが楽しみです!更新頑張って下さい! (2017年7月4日 22時) (レス) id: c2fac8b8e1 (このIDを非表示/違反報告)
佐糖さん。(プロフ) - 葵さん» 初めまして、ありがとうございます^^ やっぱりコメント貰うと嬉しくなって効率が上がりますね(単純)私が日々妄想してきたラストまであともう少し!それまで私の妄想に付き合って頂けたら嬉しいです! (2017年7月4日 0時) (レス) id: bb39dbcc66 (このIDを非表示/違反報告)
葵 - 初めまして!夢主ちゃんと椿さんがどうなってしまうのか、気になります!更新頑張って下さい! (2017年7月3日 23時) (レス) id: c2fac8b8e1 (このIDを非表示/違反報告)
佐糖さん。(プロフ) - 狐灯さん» ありがとうございます。血は結構な量でしたよ、その時着てた服は下着まで血みどろでした^^まあ、「お、なんかいっぱい血出てる」としか認識してませんでしたけど…笑 夢主ちゃんがこれからどうなるのかは…なにも言えませんね笑詳しくはwebで!(なにも載ってないです) (2017年7月3日 1時) (レス) id: bb39dbcc66 (このIDを非表示/違反報告)
狐灯 - 死ぬほど…!?む、無理しないで下さいね…?お話、凄く好きです!これからどうなってしまうのか…気になります…!女の子が、何を選択するのか…また、椿さん達と笑える日々が来れば良いなぁ…って、思ってしまいますね…(苦笑) (2017年7月2日 22時) (レス) id: 9ad341cd76 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:佐糖さん。 | 作成日時:2017年1月15日 16時