39.白いボール ページ9
相葉さんの目がそらされることなく私を見ていて。
一瞬そのまっすぐな澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
でも、私も目をそらさずに言った。
「私…行きます」
相葉さんはふっと手の力をゆるめて少し笑った。
「もう少し迷ってよ」
「…私、相葉さんにずっと憧れてて」
「憧れ、ね」
「変わりたいと思ったのは相葉さんがいたからです」
「でも、Aちゃんを変えたのは俺じゃないんだよね」
「……はい」
相葉さんが、ボールをポーンと真上に投げてキャッチする。
「相手が松潤じゃなかったらなー。
力づくでも行かせないのに」
「……」
「俺、松潤も好きなんだよね。悔しいけど」
また、相葉さんが真上にボールを投げた。
少し薄暗くなってきた空に、白く浮かぶボール。
「送ってかないよ。
頑張れも言わない」
私は、ぺこりとお辞儀をすると相葉さんに背を向けると走り出した。
電車を乗り継いで、教えてもらったお店に行く。
扉を開けると、まだお酒を飲むには早い時間だからか店内には松本さんしかいなかった。
「本当に来たのかよ」
「…はい」
もっと酔っ払ってるのかと思ったけど、若干目にいつもの力強さがないくらいで顔色も普通だった。
「何か飲みますか？」
松本さんのお友達だという、あごひげの似合うマスターが聞いてくれた。
「じゃあ…ジンバックを」
お酒がカウンターに出されると、マスターは料理の仕込みをすると言って奥に入って行った。
松本さんはぼんやりと頬杖をついたまま、しばらく何も話さなかった。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
