35.本音 ページ5
相葉さんがちらり、と私を見る。
「Aちゃん、今日仕事終わったあと時間ある？」
胸がドキン、と鳴って。
「今日はちょっと…」
とっさに断ってしまった。
「そっか」
相葉さんがにこって笑ったあと。
「俺、謝らないよ。昨日のこと」
前をまっすぐ見たまま言った。
「謝ったら嘘になるでしょ？
だから、謝らない」
「……」
「さー！今日も一日頑張るぞー！」
「声デカいんだよ」
いつの間にか後ろにいた松本さんが、通り過ぎて行く。
「松潤、おはよ！」
「…はよ」
「テンションひっく！相変わらず低血圧だね」
「相葉さんが異常なんだよ」
じゃれあいながら行ってしまう。
出勤すると、デスクの上に置きっぱなしだった紙袋に入れたお重が目に入る。
私は一つ息を吸うと、松本さんの席に向かった。
「松本さん、これ」
「何」
「ありがとうございました」
松本さんが、紙袋の中に目をやる。
「ああ。そこ置いといて」
「…はい」
昨日もこんな風に、タイミングとか周りの目を気にしないで渡せていたら。
桜餅食べてもらえたのかな。
「何？まだ何かあるのか？」
「いえ、なんでもないです。
…失礼します」
本当は、松本さんに会ったら謝ろうかと思っていた。
昨日は余計なこと言ってすみませんでした、って。
でも。
「謝ったら嘘になるでしょ？
だから、謝らない」
相葉さんの言葉が、胸に響いていた。
その言葉で、相葉さんが私に好意を持ってくれているかもしれないことは、いくら恋愛経験が浅い私でもわかった。
と、同時に。
私も謝るのはやめようって思った。
松本さんに昨日言ったことは、間違ってない。
私の、本音。
だから私も。
自分の気持ちを否定しないし、謝らない。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
