61.上を向いて ページ31
上山さんを見送ったあと、足がもつれそうになりながら松本さんを探した。
企画部のデスクにはいなくて、でもホワイトボードの予定表に外出とは書いていないから、社内にはいるはず。
「Aちゃん、松潤なら第二会議室だよ！」
相葉さんが、またウィンクらしきものをしながら教えてくれた。
会議室に向かうと、誰もいなくて、廊下の向こうから一人で歩いてくる松本さんの姿が見えた。
「松本さん！」
ふ、と顔を上げて松本さんが立ち止まる。
微妙に3メートルくらい距離がある。
「あの……私」
何から言おう。
何を言えばいいんだろう。
「ありがとう…ございました」
「バターのことか？
お前が頑張ってたから、だよ。
他のやつらも協力してくれた」
視界が涙でぼやけて、下を向きそうになったけど。
上を向いて、笑った。
「私、企画部に来てよかったです。
松本さんの下で働けて、よかった。
松本さんに会えて、よかった」
一息で言うと、松本さんがゆっくり近づいて来る。
「ちょっと私情もはさんだ、かな」
「え？」
「俺、やっぱりAが」
「待って！」
違う、違うよ。
言いたいの。
私が、言いたい。
「はい、ちょっとストップー」
突然背後から聞こえた声に、驚いて振り向くと、二宮さんが立っていた。
「二宮さん？なんでここに」
松本さんがツカツカ歩いてきて、私の前に立った。
「俺に話があるって言ってましたよね？」
「そ。でもちょっと廊下でする話ではないんで、部屋お借りしますよ」
二宮さんが松本さんに何の話？
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
