60.リミット ページ30
工場の稼働や、他の材料をキャンセルする場合のことを考えても、今日がリミットだった。
今日バターの仕入れ先が見つからなかったら、もう商品化はあきらめないとだめだ。
今までにうちと取り引きがあったところはほとんど当たってみたけど、まだ可能性がない訳じゃない。
手あたり次第に電話をかけたり、メールを送ったりしていると、相葉さんにぽん、と肩をたたかれた。
「魔法のアメ、スペシャルバージョンだよ！」
見ると棒付きのペロペロキャンディを、じゃーん、と手渡された。
「ありがとうございます」
企画部の他の人達も今までの取り引き先のリストをくれたり、これ以外の仕事を代わってくれたり。
何もまだできていないことはわかっているけど。
私企画部に来て良かったな。
「あ、ねえ。あいつ、本当に大丈夫？」
「あいつ？」
「あのCMプランナーのやつ。ここ何日かちょろちょろ見かけるんだけど。
しつこくされてない？」
「え？二宮さんなら昨日CM動画渡された時に会っただけですけど」
「じゃあ別件なのかな？」
そんなこと一言も言ってなかったけどなあ。
と、その時受付から内線が鳴った。
「櫻井さん、五ツ葉バターの上山さんがお見えになってます」
なんだろう？
慌てて応接室に向かうと、上山さんが立ち上がって頭を下げた。
「この度は大変ご迷惑をおかけしました。
実はバターが確保できたので、まだ他の業者が決まってなければお願いしたいのですが……」
「え⁈本当ですか？」
でも、この間はどれだけ頭を下げても無理だったのに。
まだ一週間も経ってないのに、どうして？
私が訝しげな顔をしていることに気づいた上山さんが口を開いた。
「松本さんには弊社も大変お世話になっておりまして。
御社の既製品に使用している分を、そちらにまわすよう手配をしていただきました」
「……え？」
「毎日のように足を運んでいただいて。
既製品の調整をなんとかするから、今回の商品にはぜひ弊社のバターをと、頭を下げられまして」
松本さんが？
今他の仕事で手一杯なはずなのに、毎日？
私が絶句していると、上山さんが頭を下げた。
「どうぞ今後ともよろしくお願い致します」
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
