53.結果 ページ23
その日出社して、久しぶりに平川さんに会った。
「おはよー、櫻井ちゃん」
「おはようございます、お久しぶりです」
「にしても、すごいじゃん」
肘でうりうりって押される。
「え？」
「これは櫻井ちゃんにインタビューしに行く日も近いな」
私が不思議そうな顔をすると、平川さんが、あれ？と首を傾げた。
「コンペの結果、見てないの？」
心臓がどくん、と鳴る。
足がもつれそうになりながら、廊下を走って。
人だかりができている掲示板をのぞく。
「先日行なわれた社内コンペの結果、新作クッキーは企画部櫻井考案の、『君に元気をあげる』の商品化が決まりました」
へなへな、と力が抜けてその場にへたり込む。
「漫画みたいに腰抜かすなよ」
いつの間にか近くにいた松本さんが笑いをかみ殺している。
「松本さ…ん、だって、これ」
「お前が誰の力も借りずに自分で勝ち取ったんだよ」
ん、と松本さんが手を伸ばす。
ためらう暇もなく、腕を引っ張り上げて立たせてくれた。
「まだ終わりじゃない。
実際に商品が店に並んでから喜べ。
大変なのはこれからだ」
松本さんに言われた通り、やることは山のようにあった。
商品化するために、詳細を決めなければならない。
商品自体のデザインも、また一から話し合いを重ね、パッケージのデザインも。
それと同時進行で、工場や原材料を仕入れる会社とも話を進めなければならない。
また終電ギリギリの毎日だったけど、少しずつ形になっていくのが嬉しかった。
そんな時この商品のCMが決まって、渡された資料に書いていた広告代理店は翔がCMプランナーとして働いている会社だった。
その夜さっそく翔に電話した。
「へえ！Aの考えた商品のCMうちでするんだ。
つーか、商品化すごいじゃん」
「そうなんだけど……初めてのことだらけだからいっぱいいっぱいで。
翔がCM担当してくれたら心強いなって」
「……」
「翔？どうかした？」
「いや、俺が作りたいのはやまやまなんだけど。
ちょっと仕事でしばらくオーストラリア行くから俺は無理だなー」
「そうなんだ……」
がっくり。
「その代わり、すげえできるやつ送り込むわ」
翔とそんな会話をした数日後。
CMの打ち合わせが行なわれることになった。
会議室で顔を合わせたその「すげえできるやつ」は、予想とは違う可愛らしい顔で笑った。
「どーも。二宮です」
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
