52.社内コンペ ページ22
新作クッキーの社内コンペ、自信はないけど頑張ってみよう、と思った。
どんなものにしよう。
食べてもらいたい人は、どんな人だろう。
それからの毎日は、頭の中はそればっかりだった。
でも私には天才的なひらめきもないし、知識もまだまだ浅い。
結局たどり着いた答えは、「自分が一番食べたいもの」だった。
社内コンペの当日。
何度も作り直してもらった試作品と、資料を持って、心臓が口から飛び出しそうになりながら
自分の順番を待った。
「じゃあ、次。櫻井さん」
私はごくり、と唾を飲み込むと立ち上がった。
「今回私が提案致しますのは、『君に元気をあげる』クッキー、です。
ちょっと疲れた時、嫌なことがあった時、落ち込んだ時。
一口かじると、元気が出るような。
また頑張ろうって思えるような、クッキーです」
試作品を食べてもらう。
「なるほどね、優しい味だな」
「食感もホロッとくずれるところが面白い」
反応は悪くなくて、少しほっとする。
「この原材料の中に、五ツ葉バターってあるけど」
松本さんの鋭い声。
「最近生産量が限られているけど、大丈夫なのか？」
「一応商品化された時のお話はさせていただいています。
他のバターではなかなかその優しい味が出なくて」
「話が通っているんならいいけど」
「大丈夫です」
なんとかプレゼンも終え、会議室を出た時には
一気に緊張感がとけた。
後ろから相葉さんに、背中をばちん、とたたかれた。
「Aちゃん、すごいじゃん！
強敵が現れたなー、松潤」
「だな」
「そんな、まだまだです」
松本さんが片頬をあげて笑う。
「いい線いくと思うよ」
そう言ってもらえて、もう十分だった。
一人で企画を考えてプレゼンまでできたことは、すごく自信につながった
その日は、心地よい疲労感と満足度で久しぶりによく眠れた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
