51.上を向く ページ21
ふわっと風が吹いて、相葉さんのサラサラの髪が揺れる。
「……何も」
「ウソだー」
「……何もないんです。今までも、これからも」
「自分の気持ちは伝えたの？」
「それ以前の問題で。駄目なんです。
すみません、これ以上は言えません」
相葉さんが紙パックの牛乳をちう、と音を立てて吸う。
「全然わかんない」
「……すみません」
「松潤、Aちゃんのこと好きだと思うよ」
「……」
「飲み会で倒れた時、あったでしょ？
あん時俺がお姫様抱っこしたけど、さ。
松潤の顔に『本当は俺がそうしたかった』って書いてた」
そんなに前から？
気にかけてくれていたの？
「何があったか知らないけど、さ。
俺は松潤だったからいいかなって思ったの。
なのに、そんな顔すんのずるいよ」
どんな顔、してるんだろう。
思わず頬に手をやる。
「松潤とハッピー！ってニコニコしててくれないと、困るよ。
俺だって、まだ完全に気持ちなくなったわけじゃないんだから、さ」
「……ごめんなさい」
それ以上何も言えなくて、立ち上がる。
今相葉さんに優しくされたら、それをはねのける自信がなくて。
でもそれはただの甘えだって十分すぎるくらいわかっていたから。
それは余計に相葉さんを傷つけるだけだって、わかっていたから。
私は屋上を出た。
オフィスに戻って、はあ、とため息をついていたら、松本さんがツカツカ近づいて来た。
「これ」
渡されたA4の用紙に目を通す。
「新作クッキーの社内コンペ、ですか？」
「そう」
「また50個考えて来たらいいですか？」
「いや。今回はお前も参加しろ」
「え？」
「ずっとアシスタントだけで満足するつもりか？
今回はお前も一人で案出して資料作ってプレゼンしろ」
「そんな……」
一人でなんて、無理だよ。
「こら。上、向け」
ハッとして上を向く。
「お前に仕事教えてんのは誰だと思ってる」
自信たっぷりの、顔。
私が、大好きな。
「Aなら、できるよ」
頭にぽん、と手を置かれた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
