46.飲みたい気分 ページ16
なんとか一週間、ミスもせずに乗り切って金曜日の帰り。
会社を出たところで松本さんに声をかけられた。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
「お前のおかげで仕事はかどって早く終わったよ」
「本当ですか？」
嬉しくて自然に笑みがこぼれる。
「ちょっとだけ飲みに行かないか」
行きたい。
上司と部下としてなら行ってもいいのかな。
と、後ろから鈴が鳴るような特徴的な声。
「お疲れさまです。松本さん、櫻井さん」
美波さんだ。
松本さんが少し困ったように言う。
「お疲れ…」
ふんわり笑うと美波さんは行ってしまったけど
、私は背筋が寒くなった。
「すみません、今日は先約があるので失礼します」
「おい」
松本さんは何か言いたげだったけど、私はそれを振り切って背を向けた。
普段家でお酒を飲むことなんてないけど、コンビニに寄って缶のビールやらチューハイやらおつまみを買う。
何も考えずに眠りたかった。
2本目の缶を開けたところで。
ピンポンピンポンピンポーン。
「開ーけーろー！」
翔だ。
いつもなら、またか、と思うけど、今日はなんだかほっとした。
「ちょっと久しぶり、だね」
「俺こう見えても忙しいの。売れっ子CMプランナーだからな」
部屋に入るなり、翔はテーブルの上の缶に目を止めた。
「飲んでんの？めずらし」
「ちょっと…そういう気分だったの。
あ、翔も飲む？」
「もらう」
冷蔵庫からビールを出して渡すと、あぐらをかいてぐいっと飲んだ。
「で？やけ酒の原因は？」
「……失恋」
「え⁉振られたの？例のお重弁当の人？」
「……お重弁当の人って」
チーズ鱈をぱくり、と食べながら翔は首をかしげる。
「ふーん……」
「まあ、仕方ないよ」
へらっと笑った私を翔のまんまるな目が射抜くように見ている。
「お前さあ。明日暇？暇だな！
ちょっと付き合ってもらおうか」
「付き合うってどこに？」
「いいから。そうと決まれば酒止めて寝るぞ！
顔がむくんだら台無しだ」
缶を取り上げられた。
「ちょっと！まだ入ってるのに！」
「うるせ！代わりに俺が飲んでやる」
「翔だってお酒飲んだらむくむでしょ！」
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
