31.残業 ページ1
午後の会議は長引いて。
終わるとすぐに松本さんは相葉さんと一緒に、打ち合わせに出てしまった。
なんとなく気まずいままで、目も合わせられなかった。
でも気が散って仕事に集中できなかったら、余計に軽蔑されそうで、私は必死に目の前の仕事をこなした。
終業時間を過ぎるころ、外線から電話がかかってきたので取ると相葉さんだった。
「あ、Aちゃん？お疲れー！」
「お疲れさまです。打ち合わせ終わったんですか？」
「うん！そうなんだけど、こっちの偉いさんに一杯どうですかって誘われちゃってねー。
俺と松潤直帰すんね。部長いる？」
直帰。
ロッカーに置きっ放しの桜餅が、頭をよぎる。
「もしもーし。Aちゃん？」
「あ…すみません。部長今席外されてるので、
お伝えしておきますね」
「うん…どうかした？」
「いえ。大丈夫です」
じゃあよろしくね！って電話は切れた。
仕方ないよ。
こんな状態じゃ、直帰じゃなくても渡せなかったかもしれないし。
渡しても食べてもらえたか分からないし。
そんなことを考えていたら、やっぱりミスしてしまっていたようで。
「櫻井さん、このプリンの原価計算書なんかおかしくない？」
「え？」
慌てて見直すとゼロが一つ足りない箇所があった。
指摘してもらえたから大事にはならなかったものの、もうあちこちにその計算書は送ってしまっていた。
もう一度作り直して、訂正のFAXやらメールやらを送っていると、気づけばオフィスには誰もいなくなっていた。
ロッカーに着替えに行くと、お重がでん、と置いてある。
手作りだから、もちろん保存料なんてものは入ってないし。
桜餅は持って帰って、お重だけ紙袋に入れて松本さんのデスクの足元に置いておこう。
私は着替えると、ひと気のないオフィスに戻った。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2015年3月22日 18時
