第745話 傷。 ページ9
３杯目のカクテルを飲みながら
私は更に深い話をさやかにしたくなった。
おつまみを食べてるさやかの隣で
私は首に巻いていたストールを外す。
A「さやか…」
さやか「んー？」
A「私…私ね…？」
「なに？」と笑うさやか。
傷を見せてどうなるって事もないんだけど
さやかならなんて言うだろう。
私はただ、その言葉を聞きたくて
あの事件の事を話し始めた。
A「私の体に…傷があるの。もう消せないんだけど…」
さやか「……」
A「ニュースを見たってことは…事件の事も知ってるー…よね？」
さやか「…うん。」
A「あの事件でね、私、火傷しちゃって…」
さやか「……」
A「足と、首のうしろに火傷の痕が残っちゃったんだ…」
そう言うと私は髪を束ねて
首の傷を見せるように背中を向ける。
さやかは「本当だ」と
私の傷をそっと触った。
さやか「……」
A「……」
さやかの指が離れたのを感じると
私はまたストールを巻いて
元の体勢に戻った。
さやか「…なんで私に見せてくれたの？」
A「…よくわからない。だけど、さやかならどう感じるかなって思って…」
さやか「…ふぅん。」
A「……」
さやか「……」
なんだろ…この微妙な空気は。
やっぱりさやかも傷を見たら
私を"被害者"として見るのかな…
私は一口カクテルを飲むと
「はぁ」とため息をひとつついた。
さやか「"消せない"って言うところを見ると、立ち直ってないんだね？」
A「……」
さやか「誰だって自分の体で気に入らないところってあると思うんだ。だから整形とかする人がいるんだし…」
A「……」
さやか「だけど、まず五体満足で生まれて、今生きてる事をありがたく思わなきゃいけないと思う。中には体に障害を持ってたり、生きたくても生きられない人が世界中に、うんといるんだから。」
A「……そう…だよね…」
さやか「そうだよ！Aだって火傷で済んだからいいけど、刺されてたら死んでたかもしれないんだよ！」
A「……」
さやかがこんな風に考えるのは
明るくサバサバした性格上
当たり前だと思った。
だけど私の中では
"さやかにとって他人事だから"と
思ってしまう自分も正直いて…
話さなきゃよかったかなと
ほんの少しだけ後悔していた。
そんな自分にまた、嫌気がさした。
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作者名：natsu
| 作成日時：2012年4月24日 3時
