隆平side ページ23
裕ちんと章ちゃんが、寝泊まりしてくれた病室に、
夜じゅう、あの人は、何度もやってきた。
その度、
ナースシューズとは思えへん、
硬く、鋭利な足音が、
廊下の方から、
僕の鼓膜を、震わせた。
その振動が止まると、
今度は、音もなく、
病室のドアが、
スーって開いて、
暗がりの中、
光る眼と、
笑みの形を崩さへん、真っ赤な唇が、
僕を、見つめてくる。
彼女の存在を、何度訴えても、
裕ちんも、章ちゃんも、誰もおらへんの一点張り。
しばらくして、恐る恐る顔を上げてみると、
ドアは閉まっていて、
あの人は、見当たらない。
更に、
前触れなく繰り返される、その不気味な来訪の合間には、
こんなおかしなこともあった。
車椅子に乗っている僕が、
誰かの手によって、
目の前の階段に、突き落とされる、
そんな感覚が、襲ってくるんや。
もしかしてこれ、
僕が、
階段から落ちて、頭を強く打ったっていう場面？
押したんは、誰？
僕は、何で階段の近くにおったん？
僕には、
失ったままの記憶の欠片がいくつもあるんやろう。
それを全て思い出してしもたら…
僕自身が、今度こそ砕かれてしまうような、そんな気がする。
「お大事になさってくださいね」
僕は、約20日ぶりの、日光を受けながら、
裕ちん、章ちゃん、明里ちゃんと共に、
車まで見送りにきてくれた、由奈ちゃん、平野さんと、最後の挨拶を交わしていた。
「準備が整い次第、リハビリ病院から、連絡が行くと思いますので」
裕「お手数かけますが、よろしくお願いします」
明里「お世話になりました」
僕が言わなアカンことやんに、
声が、出えへん…。
夜じゅう、怯えて過ごして、
疲れてしもた。
「隆ちゃん」
お礼の一つも言えず、うつむいている僕の前に、
由奈ちゃんが歩み寄り、しゃがみ込んできた。
「また怖い思いさせてしまって…ごめんなさい」
僕は首を振った。
看護師さんは、何も悪くない。
あの人は、
これからもずっと…
ここに居つくんやろうか。
そんなことを考えていたら、
頭を刺していた、太陽の光線が、
突然、氷柱に姿を変えたような気がして、
体からは、血の気が引いていった。
この、
この感覚は、
隆「あ…ああ…」
僕を見送ろうとしてくれる、二人の看護師さん。
その背後、数メートル離れた辺りに、
あの人が、立っていた。
昨夜、ドアから覗き込んでいたんと、
同じ目をして、
同じ笑みを浮かべて。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 90人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
INFINITY(プロフ) - いつも楽しみに見せていただいてます。閲覧希望よろしくお願いします！ (2019年5月20日 1時) (
レス) id: 8ddd0f17c0 (このIDを非表示/違反報告)
太陽丸(プロフ) - まとめてしまって申し訳ありません。こちらのページから友達申請をして頂けますでしょうか？→https://commu.nosv.org/bbs/bebe0725 (2019年5月19日 7時) (レス) id: c53d241486 (このIDを非表示/違反報告)
カナマル - 閲覧希望します！ (2019年5月18日 22時) (レス) id: cf75a14418 (このIDを非表示/違反報告)
すずまる(プロフ) - 閲覧希望です (2019年5月18日 9時) (レス) id: e1b3b87754 (このIDを非表示/違反報告)
あすか - はじめまして いつも楽しみにしております 閲覧希望です 宜しくお願いします (2019年5月18日 4時) (携帯から) (レス) id: c42cace51b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：太陽丸 | 作成日時：2019年3月24日 7時
