あなたside ページ15
隆「…分からへん。ひとつも、ひとつも分からへん！！」
肩が外れそうなほどの勢いで、隆平さんが、床に投げ捨てたのは、
今日付けの新聞。
記憶を取り戻してから、
だいぶ荒れていたと、聞いていたけれど、
今朝、私が来た時には、比較的落ち着いていて、
無理にではあるけれど、笑顔でおはようって言ってくれた。
そして、
売店で新聞か雑誌を買ってきてほしいと、頼んできた。
暇やから、なんて言うけれど、
暇つぶしになんて、ならないよ。
だって隆平さん、まだ平仮名しか読めないじゃない。
落ち込むだけじゃない…。
でも、
そんなこと、本人を前に、言えるわけもなく、
私は、不安に足取りを重くしながら、お使いを済ませた。
受け取った新聞を、食事用のテーブルに置いた隆平さんは、
ベッド上で、背中を丸めて、
至近距離で、字を指でなぞり始めたけれど…
間もなくして、『読めへん…』って、顔色をなくしていき、
やがて、何で？全然読めへん！って、音を立てて新聞を乱暴にめくり出し、
そして、叫んだ。
『平仮名も、分からへん』って。
完全ではないにせよ、平仮名の読み能力は、失われていなかった隆平さん。
ところが、
新聞のどこに目を移しても、
全部が、見たことのない記号になってしまっているって。
『分かった…。昨日、昨日の夜、練習せえへんかったからや。サボったから』
頭を抱え、震え出す。
ここ数日、毎晩、歩行や、読み書きの練習を、
曽根さんに言われるまま、フラフラになりながら続けていた隆平さん。
記憶を取り戻してから、パニックに陥って、
薬で眠らされたらしいから、
昨晩は、あの無茶なリハビリをしていない。
でも、そのくらいで、忘れるわけない。
きっと、一時的に脳が疲れてるだけだ。
曽根さんが、嘘を言っていたって、
もう分かったはずなのに、
一秒でも無駄にしたら、
自分の脳は、どんどん壊れて行ってしまうっていう、
そんな恐怖感だけは、強く強く、隆平さんの中に、根付いてしまったってことなの？
何一つ認識できない自分に我慢がならず、
新聞を投げ捨てて、
でも、しばらくして、呼吸を整えると、
乱暴なことをしたと謝って、
もう一度、私に持ってこさせる隆平さん。
それが何度も繰り返されている。
その、繊細で薄い紙は、
もう、すっかりクシャクシャ…。
それに比例して、
隆平さんの中でも、ひとつ、またひとつ、
何かが崩れていくように、見えた。
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INFINITY(プロフ) - いつも楽しみに見せていただいてます。閲覧希望よろしくお願いします！ (2019年5月20日 1時) (
レス) id: 8ddd0f17c0 (このIDを非表示/違反報告)
太陽丸(プロフ) - まとめてしまって申し訳ありません。こちらのページから友達申請をして頂けますでしょうか？→https://commu.nosv.org/bbs/bebe0725 (2019年5月19日 7時) (レス) id: c53d241486 (このIDを非表示/違反報告)
カナマル - 閲覧希望します！ (2019年5月18日 22時) (レス) id: cf75a14418 (このIDを非表示/違反報告)
すずまる(プロフ) - 閲覧希望です (2019年5月18日 9時) (レス) id: e1b3b87754 (このIDを非表示/違反報告)
あすか - はじめまして いつも楽しみにしております 閲覧希望です 宜しくお願いします (2019年5月18日 4時) (携帯から) (レス) id: c42cace51b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：太陽丸 | 作成日時：2019年3月24日 7時
