あなたside ページ40
歩行器選びは、揉めに揉めたけれど、
最終的に、隆平さんが選んだのは、
火事で失ったのと、同じものだった。
品番も色もまるっきり同じ。
隆平さんに寄り添い、自立という希望に導いてくれた、初代歩行器は、
焼失という、無残な形で消えてしまった。
あの歩行器は『死んでしまった』んだって、
失ってすぐの頃、隆平さんはそう言っていた。
そんな、悲しい記憶を宿したのと同じ顔をした、違うものと共に歩いて行く。
それって、隆平さんにとって、つらいことではないのかな。
コテージで起きた、あの悲劇。
できれば、それを彷彿させるような存在は、
彼のそばに、いてほしくない。
それが私の思いだった。
でも、
そんな心配をよそに、当の本人は…
隆「久しぶりやなあ♡」
後日、到着した歩行器を見て、隆平さんは顔を綻ばせた。
消えてしまったあの子の、
生まれ変わりとでも、思おうとしているのかな。
優しい、優しい目だった。
腕を広げて『おいで』って言ってくれているような、あのオレンジ色のアーム。
手を伸ばし、まだ綺麗なそれの先端を、よろしくの握手をするかのように、そっと掴む隆平さん。
穏やかで、優しい横顔だった。
亮「まる！見て見て見て見て！」
そんな中、興奮気味な声と共に、車椅子を引きずって現れたのは、錦戸さん。
この車椅子も、新入りくんだ。
前のものが、歩行器と共に焼失してしまってからは、レンタルの車椅子を使っていたんだけれど、
そろそろ返却期限も迫っていたから。
ちなみに、シートとアームと、グリップ部分がオレンジ色。
せっかくだから、歩行器と同じシリーズで揃えちゃった♡
忠「わ〜！リクライニングできるやーん♡」
どーんと、勢いよくシートに腰を下ろし、ふんぞり返る末っ子くん…。
亮「それマルの！てか、寝るな！！」
忠「ｚｚｚ」
この人って…
眠りに関しては、本当に、リアルのび太くんよね←
信「今度からこれで病院行けるな」
隆「おん！」
村上さんに髪をワシャワシャされて、隆平さん、嬉しそうにうなずいた。
死んでしまったあの子と、同じ顔をした、新入り歩行器くん。
そして、一緒にやってきた車椅子くん。
あなたたちは、
どこにも消えてしまわないでね。
隆平さんを、悲しませないで、
ずっと、隆平さんの支えになって。
隆平さんが、彼らに馳せている思いも、
きっと同じ。
これからの長い人生を、一緒に歩いて行こうって。
そうだよね。
隆平さん。
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作者名：太陽丸 | 作成日時：2018年9月9日 8時
