隆平side ページ37
蓋を開けた途端に、鼻を刺してきた、
化学薬品特有の匂い。
それは、現実から意識を遠ざけてくれた。
本気で飲むつもりなんか、なかった。
でも、
あの強烈な匂いが、脳を鈍らせたんか、
気付けば僕は、ボトルの口を、
自分の唇に当てて、
傾けていたんや。
幸いにも、
それが喉を通ることはなく、
唇が少し湿ったところで、
突然現れた大きな手に、ボトルごと奪われていった。
飲んでへんか！？
そう言って、乱暴に唇を走っていく、誰かの服。
その『誰か』が、
そして、ボトルを奪った人物が、
裕ちんやということに気が付いて、
そこで初めて、怖くなった。
弱まっていたとはいえ、
意識はあったし、
除光液やってことも認識していたんに、
僕は、
自分の意思で、
喉に流し入れようとしたんや。
裕「このアホがっ…。死ぬのだけは…アカンっ」
僕をぎゅっと抱き締める裕ちん。
肩に感じる湿り、熱さ、そして荒く震える呼吸音。
それは、僕が犯そうとしたことの重さを、
語っていた。
僕の肩から顔を離し、
真正面に現れた、裕ちんの顔。
厚い唇が震えて、
鼻が赤く染まり、
目には、涙を湛えている。
僕の腕を掴むその手は、
強くて、強くて、
痛いほどやった。
僕の心は今、疲れ果てている。
頑張れへんことに、焦っている。
追い詰められている。
けど、だからって、
まだ生きられる時間を、自分で消すなんて。
裕「ごめんな…気付かんで」
今にも土下座しそうな表情をして、声を絞り出す裕ちん。
裕「なあ、マル。いくらでも俺らに当たってくれてええんやで。何なら、投げやりになっても、引きこもってもええねん」
隆「…」
裕「けど、これだけは約束して」
隆「約束？」
裕「自分で自分の命を断つことだけは、せんって」
自分で自分の命を、断つ。
こうして言葉にされて、
鳥肌が立った。
僕は、
自分を殺そうとしたんや。
衝動的とはいえ、
一瞬でも、
自分の命を…。
隆「約束します」
誓うように、
まっすぐ、裕ちんの目を見た。
隆「もう二度と、死のうとなんかしません」
そう言うと、目の前に、
ようやく、あの穏やかな笑みが戻り、
それに誘われるように、今度は僕のほうから、しがみついていた。
優しいお兄ちゃんの体温を感じながら、
安堵する自分に、気がついた。
頑張れなくても、
頑張れるようになるまで、待てばええ。
生きている限り、
全ての希望が消えることなんて、
ないんやから。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 112人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：太陽丸 | 作成日時：2018年9月9日 8時
