隆平side ページ35
せっかくのカレーやのに、
泥でも入れたかのように、舌に不快な重みを感じるだけ。
美味しいはずやねん。
明里ちゃんの作るカレー、大好きやし。
一緒に食べてくれている章ちゃんも、
頬緩ませて、美味しい美味しい言うてる。
そうやろうなあ。
嗅覚は、間違いなくええ匂いを捉えているもん。
なのに…何でか、
息を止めたくなる。
カレーは、いつまでも嚥下できひん。
食道がシャッターを、下ろしてしもたみたい
…行き先のないカレーは、
罪悪感に押されるまま、強制的に喉をぶち破って嚥下されるまで、
口の中に留まっていた。
２，３回、その作業を繰り返した後、
僕は、食事を終えたい旨を伝えた。
明里ちゃんが一生懸命作ってくれたカレーを、
これ以上、
こんな感覚で、迎え入れたくなかったから。
章「もうご馳走様？」
隆「おん…ごめんなさい」
章「マル、すぐ謝らんの！聞いただけやで」
章ちゃんは、ちょっと唇を尖らせて、僕の頬をツンツンすると、
困ったような、優しい笑みを見せた。
その後、二人は部屋を去って、
一人になった僕は、
車椅子に座ったまま、
頭を抱えた。
ホンマなら、
ここで頑張らな、アカンねん。
そうやないと、
僕は手の機能まで、失ってしまうかもしれへん。
一度は、一人暮らしができるまでに力を取り戻せた僕の体。
また、あの頃の、
前向きな気持ちに戻りたい。
みんなの手を煩わせる時間を、労力を、
減らしたい…。
そのためには、今、入院中に衰えた力を、
取り戻さなあかんのに。
けど、動かへん。
ホンマにこのまま、
亮ちゃん言うように、寝たきりなってしもたらどうなるん？
気力が湧いてこないことへの不安感からか、
どんどんどんどん、ネガティブに吸い込まれていく。
ふと…
そんな僕の視界に、ある物が入った。
それは、
ネイルの道具一式。
さっき、章ちゃんが、
マルもやってみいって、
僕の爪に、太陽デザインの、ネイルを施してくれたんよ。
章ちゃんも、みんなも…
僕は、みんなの太陽でいてほしいって、
まだ、そう思ってくれてるんかな？
でも、
もし、太陽に戻れなくなったら…。
心に重い暗雲が覆う。
僕は、おかしくなっていたんかな。
手の届くところにあった、そのセットの中から、
一つのボトルを取り出していた。
リムーバーって書いてある。
除光液ってことやんな。
毒性、強いんかな。
これって…
飲んだら、
どうなるんやろう。
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作者名：太陽丸 | 作成日時：2018年9月9日 8時
