隆平side ページ23
…る
まる
やがて、何もかもが焼き尽くされ、
漠然と、何かの『終末』を感じた時、
この場には、似つかわしくない、
柔らかな声が、僕の聴覚を撫でてきた。
ここで僕は、
自分の瞼が、閉ざされていることに気が付き、
ゆっくりと、
そのシャッターを上げていった。
章「まる、大丈夫？」
ぼやけた視界の中で、揺らいだんは、
天井を背負った章ちゃん。
隆「しょう…ちゃん…」
その響きまでも優しい、彼の名を呟いた時、
干からびた喉には、削られるような痛みが走り、
反射的に、目から熱い粒が落ちたけれど…
直後、ザラザラしたあったかいものが、頬を走っていった。
『ニャー』
章「チーちゃんも、一緒に来てくれたんやでえ」
チーちゃんの舌やったんか。
この痛みを伴う、涙の拭い方。
何となく、信ちゃんぽいなあ。
『泣くな泣くな』って、呆れ笑いしながら、タオルでガシガシ拭いてもらっているみたいな…。
章「まる、お茶飲み」
章ちゃんが、ストローのささった、ペットボトルのお茶を差し出してくれた。
章「持っとくから」
章ちゃん。
また溢したら、僕が気にするって、心配してくれてるんかな。
隆「ありがと」
ガサガサの唇は、
ストローの当たる刺激ですら、痛みとして感知してしまう。
そして、
うまく吸い上げられへん。
まだ止まらない、震えのせいかな。
章「ゆっくりでええでぇ」
隆「ごめん…」
僕は、がぶ飲みしたい欲を抑えながら、
もどかしく、チビチビと喉を潤していった。
徐々に、
感覚も鮮明になっていく。
背中、ベタベタしてる。
額には、前髪が張り付いているし、
枕も湿って…。
熱さと寒さが共存しているみたいな、
不快な体感や。
章「ヨコちょがなあ、マルが何も飲んでへんって気にしとったんよ」
半分ほど、中身の減ったペットボトルを見て、
章ちゃんが安心したようにニコニコしてきた。
せや…。
昨夜、裕ちんに負ぶさって、ここに来たんや。
熱があるわけでも、体調が悪いわけでもないんに、
ひどく呼吸が苦しかったことを、覚えている。
裕ちんはずっと、背中をさすってくれて、
たっちょんも、ずっと見守ってくれていたんに…
ありがとうも、ごめんなさいも、
誰にも言えてへん。
隆「章ちゃん…誰か他におるん？」
章「亮がリビングにおるで」
亮ちゃん、いてくれてるんか。
隆「…呼んで来てくれへん？」
僕はひどいことをした。
ひとりひとりに、
ちゃんと、謝らな。
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作者名：太陽丸 | 作成日時：2018年9月9日 8時
