信五side ページ16
後悔はしてへん。
マルがアカンことをしたんは事実やし、
タツやて、傷ついたやろうし。
もちろん、マルが単なるワガママで、あんな行動に出たわけやないことは分かる。
周りに手間をかけることを、恐れているような子や。
よう分からんけど…パニックになったんやろう。
信「…とはいえ、あんな態度とるんは正さんと、後々困るんはマルやと思うねん」
哀れな被害者たちを、ビニール袋やら雑巾やらの中に消していきながら、
俺は、何か言いたげな顔たちに向かって、思いのままを喋り続けた。
信「マルは今の時点では、生涯、介助の必要な体や。歩行器に戻るまで回復したって、それは同じ。不満も訴えもうまいこと吐き出せへん上、こんな形でヘルプサインを示すんは…阻止せなアカン」
前にあったよな。
マルが、ナースを完全拒否して、
俺たちにだけ何でも頼むようになっていた頃、
自分たちがいつもそばにいられるわけやない。
ちゃんとナースにも頼れるようにならな。
その思いで、亮が、
マルの発した俺たちへの訴えを、改めてナースに頼み直したこと。
マルは、あの時、
絶望的な顔をしとった。
俺たちに見捨てられたみたいな、
ヨコとか明里ちゃんとかは、
別に自分らにだけ頼ったってええって、
せっかく頼ってくれるようになったのにって、
亮を非難しとった。
俺も、あの後、過呼吸まで起こしたマルを見て、
さすがに言い過ぎやって、思ったけど、
それは、時期尚早って意味であって、
亮の意見には、概ね同意やった。
信「状況はちゃうけど、俺もたぶん、あん時の亮の気持ちと一緒なんやと思う」
亮「村上くん…」
信「俺らは、マルがいくらワガママ言うても、甘えても、それでマルを見捨てたりはせえへん。…けど、マルやて、今後、外に出ていく機会があるかもしれへん。俺らはいつもそこに付き添えるわけやない。そんな時…ちゃんと上手に頼れへんと…またマルは苦しい思いするかもしれんやんか」
結局、
腹が立ったというよりは、
それが怖かってん。
あんま言いたないけど、
介助を必要とする立場の人間って、
遠慮はせんでええけど、謙虚さは常に持ってなアカンと思うねん。
あいつのことを、よう知ってる俺らの前ではええで。
でも、
外の世界では、そうもいかへん。
何の理由があろうと、こんな乱暴な行動に出てしもたら、
お前に差し伸べられる手は、
減っていく。
全員がとは言わへんけど、
他人って、そんなもんや…。
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作者名：太陽丸 | 作成日時：2018年9月9日 8時
