逆光【橙】３

隆平side ページ31

全体での舞台稽古が始まった。

座長やから、余計な緊張や遠慮を溶かして、共演者さんたちが力を出し切れるような、

そんな空気を作らなアカン。


とはいっても、僕ができるんは、ふざけたり、馴れ馴れしく絡んだり、お菓子を買ってきて配ったり…。

鬱陶しがられる可能性も高いやつやけど、

ありがたいことに、そんなんでも、現場には和やかな雰囲気が広がっていった。


僕なりに一生懸命、太陽のような存在になろうってがんばった。

でも無理しているんやなって、自分でもよう分かる。

稽古が終わると、全身の力が抜けて、笑顔の仮面もよく動きまわる元気な鎧も、全部がはがれ落ちていくんや。

『マルちゃん』でおることに、こんなにパワーを使わなアカンなんて、悲しくて仕方ない。


渋やんがテレビ復帰し、生の歌番組で、新曲を堂々と歌い上げて、

完全復活ですね！なんて、拍手喝采を頂くという、幸せなムードになった夜。


その翌日の、１日がかりで行われていた収録の休憩中、

僕は、テレビ局を離れていた。


ぽかぽか陽気に包まれた昼下がり、

僕はおるんは、

その温もりが遮断された、白く大きな建物の中。

漂うのは、心地の良い風の匂いではなく、消毒液みたいな匂い。


ほんまは誰にも話すつもりはなかったんやけど、

スケジュールが詰まりすぎてて、お昼の休憩時間くらいしか、行ける暇がなくて…。

そんな僅かな合間を使ってまで、病院に行かなアカンなんて状況、普通やないやん。


せやから、明里ちゃんだけには、白状するしかなかった。


神経内科で診てもらった時、異常がなかったってのは嘘で、

再検査が必要やって言われていたこと。


青ざめた明里ちゃんの顔を前に、

咄嗟に『念のためなんやて！たぶん大丈夫やって先生も言うてた』って、ヘラヘラして見せた。

先生、そんなこと言うてないけど、

これは自分自身の願望でもあった。


飽くまで、まだ疑いの段階やから、

今から受ける検査の結果が、どう転がるかなんか分からへん。

絶望するのは早いねん。


病院に到着して車から降りた時、足に痺れが走って、よろけてしもたもんやから、

明里ちゃん、付き添うなんて言い出した。

何度も断ったんやけど、結局は明里ちゃんの押しに負けて、やむなく２人で建物の中に入ったんや。


次に太陽を浴びる時、

その時は、僕の心も晴れてくれているやろうか。

それとも…土砂降りになっとるんやろうか。

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