逆光【橙】３

隆平side ページ29

渋やんの仕事復帰を前に、僕らはパーティを開催することになった。

料理は年下組で引き受けて、

裕ちん家のキッチンで、たこ焼きをぎょうさん焼いた。

それを大皿に並べて、∞マークを作るねん！

僕の案！ええやろ？←


食べきれるんかって量のたこ焼きを、すっかりパーティ会場化されたリビングに持っていく。

壁にはちゃんと、僕のギャグも貼ってある。

よかった、剥がされてへんで←

亮ちゃんの輪繋ぎはかわええなあ。

章ちゃんの似顔絵は、シャクレ強調されて何か嫌やけど←

まあ、顔の色を塗ってもらえてない裕ちんよりはマシか。


主役の渋やんも、何だかんだ言いながら嬉しそうや。

ほんまよかった。


計画通りに着々と進むパーティ。

たこ焼き∞も、無事、みんなのお腹に消えていって、

そろそろお開きかなって思った時、


いきなり、まるすば以外のみんなが隣の部屋に籠り始めた。

何かと思えば、みんな、各々の楽器を手にしてて、


『俺らの演奏で『道』を歌え』なんて言うねん！

ひどいわ、何で僕にまで内緒にしとくんよー。

心の準備がっ←


そんな僕なんかお構いなしに、信ちゃんの指から、ピアノの音色が奏でられる。

もう腹くくるしかないわ！


『道』は、僕と渋やんが一緒に生み出した、唯一のデュエット曲。

前回のリサイタルで、渋やんの歌声が消えたんも、

ちょうどこの歌の最中。


悪いイメージを復帰前に払拭させたいって言う、信ちゃんと裕ちんの提案やったらしい。

歌への不安を取り去ってから、復帰しようってことやな。

ええ案やと思う。

でもやっぱり、僕にだけでも知らせてほしかったわ←


　 １人

散らかった部屋にうずくまるように

　 ふさぎ込んでは、夢みてた

　 あの頃の僕、今、ここには居ないよ

　 どうしてだろう幸せだな


　 いつもの笑顔 いつかの涙

今も歌うよ 君と


　 同じ空見ていた

　 今よりもっと遠くまでと

　 未来を見つめて


　 君の笑う顔を今ここでみていたいから

　 僕は今、ここにいるよ


　
渋やんは、幸せそうな表情しとった。

歌は、渋やんの宝物なんやなって、

ひしひしと伝わってくる。

これを失いそうになったんやから、

怖かったやろうな。

それでもがんばって、ちゃんと取り戻したんや。


強いな、渋やんは。


…僕はどうやろう。

もし…大切なもんを失う危機にさらされたら、

それを手放さずに、恐怖に耐えることができるやろうか。

勝つことが、できるんやろうか。

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