5-6 ページ13
震えた彼女の肩の感触は、彼の手に残っていた。彼は彼女を外に連れ出したことを悔やんでいた。まさかここまで、彼女の精神すらも弱っていたとは思わなかったのだ。
だいたい一ヶ月前。彼は親から幼馴染のことを聞いた。そういえば数年会っていないな、元気にしているだろうか程度にしか思っていなかった、妹のようで友達のような幼馴染が倒れたと聞いた。
仕事のやりすぎで、内臓がやられてしまった。彼女の勤め先はブラック企業ではなかったが、彼女の部署の上司同僚が彼女に仕事を押し付け続けていたらしい。たった数年で、彼女は壊れてしまったのだ。
彼女が病室で眠る姿を、一度だけ見たことがある。数年前に見た姿よりも頼りなくやつれた顔で眠る彼女が、彼の心を抉った。そんな状態で彼女の目覚めを待つこともできず、一度自宅へ帰ったほどだ。
ちらりと彼は隣に座る彼女を見た。顔色は戻ったが、まだどこか頼りない。元気な少女の頃の面影は消えかかってしまっていた。彼女は何も言わず、何食わぬ顔で静かにペットボトルのお茶を飲んでいる。
「お茶足りるか？」
「ん」
昔から彼女の面倒は彼も見てきた。たくさん彼女にゲームを教えたし、勉強だって教えてやった。だから自分には慣れているのだろう、と彼は分析する。
でも、自分が声を荒げたら？
彼女はあんな風に震えるのだろうか、それとも慣れた人間だからいつものようにあしらわれるのだろうか。彼の頭の中で、そんなことがぐるぐると回る。
「あんた、大丈夫？」
はっとして、彼は彼女を見た。彼女は心配そうに彼を見上げている。
「…俺はな」
「じゃあ戻らん？休んでばっかも申し訳ないし」
けろっとした顔で彼女は立ち上がる。自分の心配を返せ、と彼は言いたくなったが、天邪鬼な彼は決して言わなかった。逆に彼女を泣かしてやろうかと思ったほどだ。泣き顔は割と好きだし。
「また話せよ」
彼がそう言うと、彼女は少しだけ言葉を失う。何を話せとまでは言わなかったが、彼女が固まっている理由を彼が聞いたことがつたわったのだ。
彼女は小さくうなずいた。そこで彼は安堵してしまったのだ。ああ、彼女にとって自分は、隠さないでいられる相手なのだと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぬ - ああああああ！！！！更新停止……！！！数年前の作品ですしもう届かないかもしれないですが文章から情景がとても伝わってきて好きです……！！ (2020年10月19日 1時) (
レス) id: 34bf2c87c5 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - SAKANAさん» や！やった〜！とっても嬉しいです！今忙しくて更新進めるのも遅くなりそうなのですが、よければまた見てやってください〜！ (2018年7月22日 21時) (レス) id: 1c2917eb3f (このIDを非表示/違反報告)
SAKANA(プロフ) - 好きです…とわぽんのこういう夏のお話待ってました…夏の暑さ、息苦しさなんかが文章一つ一つに感じられて好きです…更新頑張ってください… (2018年7月21日 21時) (レス) id: a3a9931e24 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - しぃさん» ありがとうございます！体調が芳しくなく、進みが遅いのですが気長に待ってやってください (2018年6月22日 23時) (レス) id: d1689b7237 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 文章から情景が浮かんで見えるようで、作品全体から夏独特の切ないような雰囲気を感じて凄く好きです。更新楽しみにしています！ (2018年6月22日 16時) (レス) id: a19881d269 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もっち | 作成日時：2018年6月4日 11時
